ウルトラトレイルや長距離レースでは、脚力だけでなく、苦しい時間帯をどう受け止めるかが前進を左右します。世界のウルトラレースで活躍するコートニー・ドウォルターは、極限の場面でも自分の状態を整理し、目の前の一歩へ意識を戻す方法を磨いてきました。
ここでは、コートニーが実践する6つのメンタル術を、トレイルランニングやロング走で取り入れやすい形にして紹介します。なお、メンタルの工夫は、けがや体調不良を我慢するためのものではありません。鋭い痛み、めまい、意識の混乱、低体温症が疑われる症状などがある場合は、競技の継続より安全を優先してください。
ウルトラトレイルで必要なメンタルの強さとは
メンタルの強さとは、苦しさを感じなくなることではありません。疲労や不安がある状態でも、状況を冷静に捉え、次にできる行動へ注意を向け直す力です。
コートニーは、レース中に訪れる非常に苦しい時間を「ペインケーブ(苦痛の洞窟)」と表現します。そこから無理に逃げようとせず、何が起きているかを観察しながら、一歩ずつ進む。その考え方が、次の6つの方法につながっています。
1. 今この瞬間に集中する
残り距離や次の長い登りを考え続けると、まだ起きていない苦しさまで先取りしてしまいます。そんなときは、呼吸、足の接地、腕振り、次のエイドまでなど、目の前にある小さな単位へ意識を戻します。
「ゴールまであと何時間」ではなく、「次のカーブまで」「まず水分を取る」と区切るのがポイントです。長時間の走りに身体と気持ちを慣らす方法は、ロング走・LSDトレーニングの効果と取り入れ方でも紹介しています。
2. 心の中の言葉を言い換える
「もう無理だ」「このまま失速する」と考え始めると、不安がさらに強くなることがあります。まず、その言葉が事実なのか、一時的な疲労が生んだ予測なのかを切り分けましょう。
たとえば「脚が重いから終わりだ」を、「脚は重い。でも補給してペースを整えれば、次の区間へ進める」に置き換えます。根拠のない楽観ではなく、次に取れる具体的な行動が入った言葉に変えることが大切です。
3. 苦しさをいったん認める
つらさを完全に否定すると、かえってその感覚に意識を奪われることがあります。「今はかなり苦しい」と短く認めたうえで、呼吸、フォーム、補給、装備など、自分が調整できる要素を確認します。
確認したいこと:単なる疲労か、補給不足か、暑さ・寒さへの対応が必要か、それとも中止すべき痛みや体調異常か。
認めることと、諦めることは別です。状態を言葉にできれば、必要な判断へ移りやすくなります。
4. 自分のマントラを持つ
コートニーが使う言葉のひとつは、「I’m fine(私は大丈夫)」や「Everything is fine(すべて大丈夫)」という短いフレーズです。繰り返しやすい言葉は、乱れた思考をリセットし、一定のリズムを取り戻すきっかけになります。
マントラは自分が納得できるもので構いません。「一歩ずつ」「落ち着いて進む」「次のエイドまで」など、短く具体的な言葉をトレーニング中から試しておきましょう。
5. 乗り越えた経験を思い出す
苦しい局面では、以前に似た状況を乗り越えた経験が「今回も対応できる」という根拠になります。完走経験だけでなく、雨の中で走り切った日、疲れていても予定した時間を動けた日、補給の失敗から立て直した経験も立派な材料です。
日々のトレーニングを記録しておくと、記憶だけに頼らず、自分が積み重ねてきた証拠を振り返れます。負荷の偏りを確認するには、Suuntoでトレーニング負荷を理解・管理する方法も参考になります。
6. あえて別のことを思い描く
集中し続けることだけが正解ではありません。苦しさへ注意が固定されてしまったら、家族や友人、好きな景色、ゴール後に食べたいものなどを思い浮かべ、一時的に意識を別の場所へ移す方法もあります。
ただし、足場が悪い区間、夜間、分岐の前後では安全とナビゲーションを優先してください。単調で危険の少ない区間と、集中が必要な区間を見分けて使い分けます。
メンタル術はトレーニングで試す
6つの方法は、本番で初めて使うより、ロング走や登りの反復などで試しておくほうが実践しやすくなります。苦しくなった瞬間に、どの言葉や考え方が自分に合ったかをメモしておきましょう。
- 苦しくなった場面と、その直前のペースや補給を記録する
- 使ったマントラと、気持ちがどう変化したかを書く
- 次回は何を変えるか、ひとつだけ決める
走り始めるまでの気持ちを整えたい場合は、ランニングのモチベーションを高める10のヒントもあわせてご覧ください。
データと自分の感覚を組み合わせる
長時間のレースでは、気持ちだけで押し切らず、ペース、心拍数、経過時間、標高、ルートなどの情報も判断材料にします。Suunto Vertical 2やSuunto Race 2のようなGPSスポーツウォッチを使えば、現在の状況を確認しながら、ペース配分やナビゲーションの判断を支えられます。
一方で、数値が良好でも鋭い痛みや明らかな体調異常があれば、立ち止まって状況を確認する必要があります。トレーニング後は、リカバリーの本当の意味と回復の考え方を参考に、次の運動へ向けた回復も計画しましょう。
よくある質問
メンタルが強い人は、レース中につらくならないのでしょうか?
いいえ。つらさを感じても、それにどう反応するかを選び、次の行動へ意識を戻せることが重要です。
初心者でもマントラは役立ちますか?
役立ちます。短い距離の練習でも、「呼吸を整える」「次の角まで」など、自分に合う言葉を試せます。
痛みがあるときも、考え方を変えて走り続けるべきですか?
いいえ。鋭い痛み、動作の変化を伴う痛み、めまい、意識の混乱などは、立ち止まって状態を確認すべきサインです。必要に応じて競技を中止し、救護や医療機関へ相談してください。
まとめ
コートニー・ドウォルターの6つのメンタル術は、苦しさを消す魔法ではなく、状況を整理して次の一歩へ戻るための実践的な方法です。
- 今この瞬間に集中する
- 心の中の言葉を言い換える
- 苦しさをいったん認める
- 自分のマントラを持つ
- 乗り越えた経験を思い出す
- あえて別のことを思い描く
普段のトレーニングから一つずつ試し、自分に合う方法を準備しておきましょう。
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