100kmを超えるウルトラトレイルでは、走る選手だけでレースが完結するとは限りません。エイドステーションで補給物を渡し、装備を整え、表情や言葉から状態を読み取り、再びコースへ送り出す「クルー」の存在が、大きな支えになります。
Suuntoアスリートのマルティナ・ヴァルマッソイとダコタ・ジョーンズは、2週連続で開催された山岳レースで、ランナーとクルーの役割を交代しました。走る側と支える側の両方を経験した二人の物語から、ウルトラトレイルのクルーに必要な準備と考え方を紹介します。
ウルトラトレイルのクルーとは
ウルトラトレイルにおけるクルーは、主催者が用意するエイドスタッフとは別に、選手を個人的にサポートする家族、友人、チームメンバーなどを指します。大会が指定したサポート可能エリアで選手を待ち、食事や飲み物、着替え、ライト、予備バッテリーなどを準備します。
クルーの仕事は、物を渡すことだけではありません。選手の様子を観察し、何を優先すべきかを短時間で判断し、次の区間へ集中できる状態を作ることも重要です。ただし、サポート可能な場所や方法は大会ごとに異なります。必ず大会規則を確認し、指定エリア以外での補給や伴走など、禁止されている行為を行わないようにしましょう。
マルティナとダコタが役割を交代
イタリア・ドロミテで開催されるLavaredo Ultra Trail by UTMB®では、マルティナがランナー、ダコタがクルーを務めました。故郷の山を走るマルティナのレースが思いどおりに進まない中、ダコタは落胆する彼女に寄り添い、その状況を受け止める手助けをします。
そのわずか1週間後、ピレネー山脈のVal d’Aran by UTMB®では立場が逆転。今度はダコタが走り、マルティナがクルーになります。マルティナは、疑いや疲労と向き合うダコタを支え、トップ10でのフィニッシュへ送り出しました。
一方が指示を出し、もう一方が従うだけの関係ではありません。普段から互いを知り、言葉が少なくても状態を読み取り、必要なときには厳しいことも伝える。二人の経験は、長距離レースが信頼によって支えられていることを示しています。
ランナーとクルーの役割を交代した二人を追ったSuunto公式ドキュメンタリー
クルーが準備したい7つのこと
1.大会規則とサポート可能エリアを確認する
最初に確認するのは、選手の希望ではなく大会のルールです。クルーが入れるエイド、駐車場所、利用できる交通手段、サポート可能な時間、渡せる物、ペーサーの可否を整理します。大会によっては混雑を避けるため、クルーの人数や車両を制限している場合もあります。
2.選手の通過予定を幅で考える
山岳レースでは、天候、路面、体調によって通過時刻が大きく変わります。「15時に到着」と一点で考えず、「14時から17時」のように幅を持たせましょう。前後の計測地点や大会のライブトラッキングを確認し、早着にも遅れにも対応できるようにします。
3.補給と装備を迷わず取り出せるようにする
選手が到着してから荷物を探すと、本人もクルーも焦ります。水分、補給食、着替え、ライト、バッテリー、救急用品などを用途別に分け、見える状態で並べておきます。次の区間に必要な物と、状況に応じて選ぶ物を分けておくとスムーズです。
4.質問は短く、優先順位を決める
疲れた選手に多くの選択肢を示すと、判断の負担になります。「食べられたか」「水分は取れているか」「痛みや寒気はないか」「次の区間へ進めそうか」など、重要なことから短く確認します。普段と明らかに様子が違う場合は、無理に送り出さず大会スタッフや医療スタッフへ相談してください。
5.励まし方を事前に話し合う
苦しいときに欲しい言葉は人によって違います。明るく励ましてほしい人もいれば、静かに必要なことだけ伝えてほしい人もいます。レース前に「弱気になったとき、どう接してほしいか」「中止を検討する基準は何か」を共有しておくと、現場で迷いにくくなります。
6.クルー自身の食事・睡眠・防寒も準備する
長いレースでは、クルーも夜通し移動して待つことがあります。自分の水分、食事、雨具、防寒着、ヘッドライト、モバイルバッテリー、休める場所を準備しましょう。クルーが疲労して判断力を失うと、安全なサポートが難しくなります。運転を交代できる体制も大切です。
7.完璧に立て直そうとしない
クルーが選手の痛みや疲労をすべて解決できるわけではありません。できることは、現状を一緒に整理し、補給や装備を整え、次の小さな目標へ意識を向ける手助けです。必要なときにそばにいること自体が、大きな支えになります。
ランナー側がクルーへ伝えておくこと
良いサポートには、ランナー側の準備も欠かせません。レース前に次の情報を共有しましょう。
- 各エイドの予定通過時間と、想定する早着・遅延の幅
- 区間ごとに必要な補給、着替え、装備
- 食べやすい物と、体調が悪いときにも受け付けやすい物
- 過去に起きたトラブルや注意すべき痛み
- 励まし方や、声をかけずに休ませてほしい場面
- 中止や医療スタッフへの相談を考える基準
- 大会本部、宿泊先、家族など緊急時の連絡先
計画は固定せず、当日の状況に合わせて変える前提で共有します。ランナーが自分で考える余力を失ったときにも、事前の合意が判断の助けになります。
Suuntoでレース状況を共有する
レース前にはコースデータをSuuntoアプリへ取り込み、区間距離、累積標高、エイドの位置を確認しておきましょう。対応するウォッチへルートを同期すれば、レース中に現在地と進行方向をオフラインマップ上で確認できます。詳しい操作は登山・トレイルランニングで役立つ地図・ナビゲーションガイドで紹介しています。
長時間レースでは、Suunto Race 2やSuunto Vertical 2のバッテリー設定を、想定する行動時間に合わせて事前に確認しておくことも重要です。ウォッチの記録はクルーのライブトラッキングに代わるものではありませんが、選手が自分のペース、距離、標高、ルートを把握する助けになります。
トレイルランニングはチームスポーツでもある
フィニッシュラインを越えるのは一人でも、そこへ至るまでには多くの人の支えがあります。クルー、家族、友人、大会スタッフ、ボランティア、応援する人々。ウルトラトレイルは、選手と周囲の人との信頼によって成り立つチームスポーツでもあります。
世界のトレイルランニングを支える仕組みについては、SuuntoとUTMB World Seriesのパートナーシップをご覧ください。日本の実践例として、KAGASPA 50Kで優勝した吉住友里選手のインタビューも紹介しています。
ランナーとしてクルーに支えてもらった経験は、次に誰かを支えるときの力になります。マルティナとダコタのように役割を交代すると、レースを見る視点が広がり、互いへの理解も深まります。
