トレイルランニングの登りを速くするには、坂を何度も全力で走るだけでは十分ではありません。有酸素持久力の土台を作ったうえで、VO2max、乳酸閾値、登りに必要な筋力を目的別に鍛えることで、長い登りでも高いペースを維持しやすくなります。
「登りになると一気にペースが落ちる」「短い坂なら速いけれど、長い登りでは失速する」「坂道インターバルをどのくらいやればいい?」というランナーも多いでしょう。
Carmichael Training Systemsの持久系コーチNick Whiteは、登坂力を高めるには、低強度の有酸素トレーニングと高強度インターバルを組み合わせ、さらにレースで走る勾配や地形へ身体を適応させることが重要だと話します。
この記事では、VO2max・乳酸閾値を鍛える具体的な坂道インターバルと、登りを速くするための7つのポイントを紹介します。

Emelie Forsberg pushing hard in the Andorra vertical skimo race. © ISMF Press Office
1. まずは有酸素持久力の土台を作る
登りを速くしたいと思うと、最初に坂道インターバルを増やしたくなるかもしれません。
しかしNickが最初に重視するのは、トレーニングの継続性と有酸素トレーニングの量です。
VO2maxや乳酸閾値のような高強度トレーニングは、しっかりした有酸素能力の土台があってこそ効果的に積み上げることができます。
低強度のランニング、サイクリング、長時間のハイキングなどを継続し、まずは長時間動き続けられる身体を作りましょう。
これは「高強度トレーニングをしない」という意味ではありません。
低強度で土台を作り、その上に高強度トレーニングを積み上げるという順番が重要です。
ゾーン2ランニングは、その有酸素ベースを作る代表的な方法のひとつです。
▶︎ ゾーン2ランニングとは?心拍数の目安・効果・やり方を初心者向けに解説
登りトレーニング全体の考え方を知りたい場合は、こちらの記事も参考にしてください。
▶︎ トレランの登りを速くするには?持久力・筋力・テクニックを鍛える方法
2. VO2maxインターバルで短い登りのスピードを鍛える
有酸素ベースができてきたら、次に取り入れたいのがVO2maxを刺激する高強度インターバルです。
VO2maxは、運動中に身体が取り込み、利用できる酸素量を示す指標のひとつです。
VO2maxを高めるトレーニングでは、短時間に高い強度まで上げ、回復を挟みながら繰り返します。
Nickが紹介している代表的なメニューは次の通りです。
| メニュー | 高強度 | 回復 |
|---|---|---|
| 短め | 2分 × 9本 | 各2分 |
| 中程度 | 3分 × 6本 | 各3分 |
| 長め | 4分 × 5本 | 各4分 |
| 導入 | 30秒 × 5本 | 各30秒 |
基本は高強度区間と同じ長さの回復時間を取ります。
例えば3分の坂道インターバルなら、3分間しっかり強度を上げたあと、3分間ゆっくり走るか歩いて回復します。
重要なのは、1本目だけ極端に速く走ることではありません。
最後のセットまで質を維持できる強度で揃えることです。
途中から大幅にペースが落ちる場合は、最初の強度が高すぎる可能性があります。

Few athletes have a VO2 max as high as Suunto ambassador Kilian Jornet. © ISMF Press Office
すべてを「完全な全力」にする必要はない
原文では「maximum effort」と表現されていますが、トレーニングとして大切なのは、毎回文字通り限界まで出し切ることではありません。
複数本を安定して完了でき、フォームを維持できる高い強度を目安にしましょう。
特に高強度トレーニングに慣れていない場合は、30秒の短いインターバルから始め、少しずつ時間や本数を増やしていく方法があります。
3. 乳酸閾値を鍛えて長い登りに強くなる
短い急坂だけでなく、トレイルレースや山岳ランニングで長い登りを速く進みたいなら、乳酸閾値付近のトレーニングも重要です。
VO2maxインターバルより強度を少し下げ、その代わりに長時間維持します。
Nickは、1本あたりおよそ10〜30分、合計45〜60分程度の高強度区間をひとつの目安にしています。
| インターバル | 回復 |
|---|---|
| 12分 × 4〜5本 | 各6分 |
| 15分 × 3〜4本 | 各8分 |
| 20分 × 2〜3本 | 各10分 |
VO2maxインターバルとの違いは、「より長く維持できる強度で登り続ける」ことです。
例えば30分以上続く登りがあるトレイルレースでは、数分間の爆発的なスピードだけでは十分ではありません。
呼吸が大きくなっても、ペースを崩さず継続できる能力が必要になります。
短いVO2maxインターバルと長めの乳酸閾値トレーニングは、どちらか一方を選ぶものではありません。
短い登りでの高い出力と、長い登りでその出力を維持する力。
それぞれ違う登坂能力を鍛えます。

Ryan Sandes training in his local hills in Cape Town. © Craig Kolesky / Red Bull Content Pool
4. レースに近い勾配だけでなく、さまざまな坂を使う
目標レースが決まっているなら、そのレースに近い勾配で練習することは有効です。
緩い登りを長く走るレースと、急勾配をパワーハイクするレースでは、使う筋肉やフォームも変わります。
一方で、Nickはいつも同じ坂ばかり使わないこともすすめています。
例えば、
- 走り続けられる緩い登り
- 短く急な坂
- 長時間続く一定勾配
- 勾配が頻繁に変化するトレイル
などを使い分けます。
同じ坂を何度も繰り返すだけではなく、勾配や路面を変えることで、さまざまな状況への対応力を高めることができます。
5. 坂道インターバルをやりすぎない
登りを速くしたいからといって、すべての高強度トレーニングを坂で行う必要はありません。
Nickは、坂を使ったインターバルを週1〜2回程度にし、それ以外は平地や起伏の少ない場所も使うことをすすめています。
坂道は心肺だけでなく、ふくらはぎ、臀部、大腿部などへの筋負荷も高くなります。
高強度の坂道トレーニングを続けすぎると、疲労が抜けず、次のポイント練習の質が低下することがあります。
登りを速くするためにも、坂を登らない日が必要です。
低強度の日は十分低く、高強度の日は目的を持って高くする。
毎回「少しきつい」強度で走ってしまうと、トレーニングが中間強度に偏りやすくなります。
▶︎ イージーランが速すぎる?ランニングの「トレーニング・ブラックホール」とは
6. レースに近い地形で練習する
トレイルレースを目標にするなら、心肺能力だけを鍛えても十分ではありません。
少なくとも一部のトレーニングは、実際のレースに近い地形で行いましょう。
例えばレースに、
- 岩の多い急登
- 長い林道の登り
- 走れないほど急な登山道
- 何度もアップダウンを繰り返す区間
があるなら、そのような環境へ身体を慣らします。
レースに近い地形で練習すると、心肺だけではなく、必要な筋力、足さばき、フォーム、走る・歩くの切り替えまで鍛えることができます。
UTMBのような山岳レースを目標にするトップアスリートも、弱点となる登りや下りを実際のトレイルで繰り返し練習しています。
▶︎ UTMBに向けたトレイルランニング練習法|下り・筋力・登坂力をどう鍛える?

© ISMF Press Office
7. 登りではパワーウェイトレシオも意識する
登りでは、身体を重力に逆らって上へ運ぶ必要があります。
そのためパフォーマンスには、自分の体重に対してどれだけの出力を出せるか=パワーウェイトレシオも関係します。
ただし、「登りを速くするには体重を落とせばいい」と単純に考えるのはおすすめできません。
トレーニング量が多いランナーが十分なエネルギーを摂らずに体重を落とそうとすると、
- トレーニングの質が落ちる
- 回復しにくくなる
- 筋力が低下する
- 疲労が蓄積する
可能性があります。
登坂力を高めるなら、まずは有酸素能力、筋力、ランニングエコノミーを高め、同じ体重でもより大きな出力を長く維持できる身体を作ることを考えましょう。
身体組成を変える必要がある場合も、日々のトレーニングを支える十分な栄養を確保することが前提です。
坂道インターバルを1週間にどう組み込む?
登りを速くしたいからといって、VO2max、乳酸閾値、ロング走をすべて毎日のように行う必要はありません。
例えば、ある程度トレーニング経験のあるランナーなら、次のように目的を分けることができます。
| 曜日 | トレーニング例 |
|---|---|
| 月 | 休養または軽いリカバリー |
| 火 | VO2maxインターバル |
| 水 | ゾーン2のイージーラン |
| 木 | 筋力トレーニングまたは低強度ラン |
| 金 | 休養または短いイージーラン |
| 土 | 乳酸閾値または長めの登り |
| 日 | 低強度のロングラン・トレイル |
これはあくまで一例です。
高強度トレーニングの頻度は、トレーニング歴、年齢、仕事や生活の負荷、回復状態によって変わります。
重要なのは、高強度セッションの間に回復する時間を確保すること。
火曜日のインターバルで疲労が強く残っているなら、予定表を守るためだけに次の高強度セッションを行う必要はありません。
▶︎ HRV(心拍変動)とは?回復状態を確認してトレーニングに活かす方法
心拍・トレーニングデータをどう活用する?
坂道インターバルでは、ペースだけでは強度を判断しにくい場合があります。
同じ6分/kmでも、平地と急な坂では身体への負荷がまったく違うからです。
そこで、
- 心拍数
- インターバル時間
- ラップ
- 累積標高
- トレーニング負荷
- セッション後の回復
などを合わせて振り返ります。
特にインターバルでは、「1本だけ速かったか」より、セット全体をどれくらい安定して完了できたかを見ることが重要です。
例えば同じ3分×6本でも、以前より同じ心拍で速く登れるようになった、最後までペース低下が小さくなった、といった変化は成長を確認する材料になります。
トレイルランニング、インターバル、レースなどを含めてトレーニングデータを振り返りたいランナーには、Suunto Race 2があります。
Suuntoアプリと組み合わせることで、心拍、トレーニング負荷、回復などを長期的に確認しながら、次のトレーニングを考えることができます。
まとめ|登りを速くするには「坂を頑張る」だけでは足りない
トレイルランニングの登りを速くする方法は、毎回坂を全力で駆け上がることではありません。
- 低強度トレーニングで有酸素持久力を作る
- VO2maxインターバルで高い出力を鍛える
- 乳酸閾値トレーニングで長い登りを維持する力を作る
- さまざまな勾配で練習する
- 坂道トレーニングをやりすぎない
- 目標レースに近い地形へ身体を適応させる
- 筋力と持久力を高め、パワーウェイトレシオを改善する
登りのスピードは、ひとつの能力だけでは決まりません。
短い坂で高い出力を出す力。
長い登りでその強度を維持する力。
何時間も動き続ける有酸素能力。
そして、それらのトレーニングから回復する能力。
目的の違うトレーニングをバランスよく組み合わせることで、以前は苦しかった登りでも少しずつ余裕を持って進めるようになります。
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