トライアスロンのトレーニングでは、スイム・バイク・ランの3種目をただ増やせばいいわけではありません。持久力を作るロングセッション、速さを高める高強度トレーニング、日々の疲労管理、レース前のテーパリング、そしてレース後の回復まで含めて組み立てることが重要です。
特にロングディスタンスやアイアンマンを目指す場合、「3種目すべてを頑張ろう」とすると、トレーニング量が増えすぎてしまうことがあります。
では、どのようにバランスを取ればいいのでしょうか。
スウェーデンのプロトライアスリートPatrik Nilssonは、KMD Copenhagen Ironmanで7時間49分18秒を記録し、8時間を切るパフォーマンスを達成しました。
彼が重視していたのは、単純な練習量だけではありません。
持久力、高強度、トレーニング負荷、楽しむこと、そして回復を組み合わせること。
この記事ではPatrikのトレーニングを例に、一般のトライアスリートにも応用できるスイム・バイク・ランのトレーニング設計を解説します。

Photo © Carles Iturbe
トライアスロンは「3種目を全部頑張る」だけではない
トライアスロンの難しさは、スイム・バイク・ランという3種目を同時にトレーニングすることです。
ランニングだけなら、「今日は走る」「今日は休む」という比較的シンプルな計画を立てられます。
一方、トライアスロンでは、
- スイム
- バイク
- ラン
- 筋力トレーニング
- 回復
を1週間の中に組み込む必要があります。
そこで重要なのが、すべてのセッションを高い強度で行わないことです。
長く動くための低強度。
速さを高める高強度。
技術を改善するセッション。
そして休む日。
それぞれの目的を分けることで、3種目を継続しやすくなります。
1. ロングライド・ロングランで持久力を作る
Patrikがトレーニングを見直した際、特に力を入れたのが長時間のバイクとランニングでした。
アイアンマンのような長距離トライアスロンでは、数時間にわたって動き続ける必要があります。
そのため、短い高強度トレーニングだけではなく、低〜中強度で長時間動き続けるトレーニングも重要です。
例えば、
- 低強度のロングライド
- ゾーン2中心のロングラン
- 長めのスイム
などを組み合わせます。
Patrik自身はプロ選手として非常に大きなトレーニング量をこなしていましたが、その数字を一般のトライアスリートが再現する必要はありません。
重要なのは、現在のトレーニング量から無理なく積み上げることです。
低強度トレーニングの考え方については、こちらも参考にしてください。
▶︎ ゾーン2ランニングとは?心拍数の目安・効果・やり方を解説
2. 高強度トレーニングで閾値を高める
持久系スポーツでは「長く動くこと」が重要ですが、それだけではありません。
Patrikはロングライドやロングランを増やしながら、閾値を高めることもトレーニングの目的にしていました。
長距離レースでも、より高い強度を余裕を持って維持できるようになると、レースペースにも余裕が生まれます。
そこで、低強度トレーニングの中に、
- テンポ走
- 閾値付近のランニング
- バイクの高強度インターバル
- スイムのインターバル
などを目的に応じて取り入れます。
ポイントは、高強度の日と低強度の日を分けること。
すべてのセッションを「少しきつい」強度で行うと、疲労が蓄積しやすくなります。
▶︎ イージーランが速すぎる?トレーニング・ブラックホールとは
3. トレーニング負荷を管理する
Patrikはハードな週には30〜35時間ものトレーニングを行っていました。
バイクだけで15〜20時間、ランニングは約100km。それにスイムやコアトレーニングが加わります。
これはプロアスリートならではのトレーニング量であり、一般のトライアスリートが目標にすべき数字ではありません。
むしろ、このエピソードから参考にしたいのは、トレーニング量が増えるほど負荷管理が重要になるという点です。
Patrikはコーチと密にコミュニケーションを取りながら、
- 疲労状態
- トレーニングストレス
- 長期的なパフォーマンス変化
を確認していました。
トライアスロンでも、「今日どれだけ頑張ったか」だけではなく、数日から数週間の負荷がどう積み重なっているかを見ることが重要です。
3種目だからこそ疲労を見落としやすい
例えば、ランニング量を減らしていても、バイクとスイムを増やしていれば身体全体の負荷は高くなります。
「今日は走っていないから休養日」と考えていても、2時間のハードなバイクをしていれば回復日とは言えません。
種目別ではなく、身体にかかっている総負荷を見る。
これがマルチスポーツでは特に重要です。
4. スイム・バイク・ランをどう配分する?
3種目を均等に1/3ずつ練習すればいいわけではありません。
必要なトレーニング量は、
- 得意・不得意
- 目標レースの距離
- トレーニング歴
- 使える時間
- 故障リスク
によって変わります。
例えばランニングで故障しやすい人なら、心肺能力を高める一部のトレーニングをバイクで行う方法があります。
反対にスイムが苦手なら、泳ぐ回数を増やして水中での技術を改善する方が、大きなタイム短縮につながる可能性があります。
Patrik自身も、当時は特にバイクのトレーニング量を多くしていました。
均等に練習することではなく、自分に必要な刺激を必要な種目で入れること。
それがトレーニング配分を考える基本です。

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5. 高いトレーニング量を食事で支える
トライアスロンでは複数種目をトレーニングするため、運動量が多くなりやすくなります。
Patrikも、高いトレーニング量を支えるために、運動後のエネルギー補給を非常に重視していました。
ただし、本人が行っていた具体的な食事量や補給方法をそのまま真似する必要はありません。
重要なのは、トレーニング量に見合ったエネルギーを確保することです。
日々の食事では、
- 炭水化物
- たんぱく質
- 脂質
- 野菜や果物
- 水分
などをバランスよく取り、長時間トレーニングでは必要に応じて運動中の補給も練習します。
特にアイアンマンでは、レース当日の補給戦略もパフォーマンスに影響します。
本番で初めて試すのではなく、ロングライドやブリックトレーニングで自分に合う方法を確認しておきましょう。
6. テーパリングでレースへ整える
レースが近づくと、「練習しないと不安」という気持ちが出てくることがあります。
しかし本番直前まで高いトレーニング量を維持すると、疲労を残したままスタートすることになりかねません。
Patrikはアイアンマン前に、約1〜1.5週間のテーパリング期間を設けていました。
ただし、完全に運動を止めるわけではありません。
本人の場合は、レース数日前まで刺激を入れながら、全体の負荷を調整していました。
ここから参考にしたいのは、具体的なセッションをそのまま真似することではなく、
テーパリング=何もしない期間ではなく、疲労を減らしながらレースに必要な感覚を維持する期間
という考え方です。
一般的には、レースが近づくにつれてトレーニング量を減らしつつ、短い刺激を適度に残す方法があります。
どの程度減らすかは、レース距離、トレーニング歴、これまでの疲労などによって変わります。
7. アイアンマン後はすぐ走り始めない
長距離トライアスロンは、レース後の回復まで含めて考える必要があります。
Patrikはアイアンマン後の最初の1週間、ランニングを行わないようにしていました。
本人はランニングを早く再開するとふくらはぎを痛めやすいことを理解していたため、代わりに軽いバイクやスイムを行っていました。
ここで重要なのは、「1週間休めば誰でも完全回復する」ということではありません。
自分がどの運動で負担を受けやすいか理解し、それに合わせて回復方法を変えることです。
ロングディスタンスのレース後は、
- 歩いたときの痛み
- 筋肉痛
- 睡眠
- 食欲
- 日常生活での疲労感
- 軽い運動後の身体の反応
などを確認しながら、段階的にトレーニングへ戻しましょう。
長距離レース後の回復については、こちらの記事も参考になります。
▶︎ ウルトラマラソン後の回復方法|翌日から1か月のリカバリーと練習再開の目安
8. 「楽しめているか」もパフォーマンスの一部
Patrikが新しいコーチと取り組む中で、大きく変わったのはトレーニング内容だけではありませんでした。
競技を楽しむ姿勢です。
彼は以前、自分の中に「本当にレースで勝ちたい」という気持ちや楽しさが十分ではなかったと振り返っています。
新しいコーチとの取り組みを通して、トレーニングそのものを楽しみ、レースへ前向きに向かえるようになったことが、大きな変化のひとつでした。
これはプロだけの話ではありません。
スイム、バイク、ランを何か月も続けるトライアスロンでは、モチベーションもトレーニング継続に影響します。
計画通りにこなすことだけに集中しすぎて、毎日のトレーニングが苦痛になっていないか。
トレーニングデータだけでなく、「また明日もやりたいと思えるか」も確認してみましょう。
トライアスロン1週間のトレーニング例
3種目を組み合わせるときは、「毎日違う種目をすればいい」というより、強度と回復を含めて考えます。
例えば、ある程度トレーニング経験のあるトライアスリートなら、次のような組み方があります。
| 曜日 | トレーニング例 |
|---|---|
| 月 | 休養または軽いスイム |
| 火 | バイク高強度+短いイージーラン |
| 水 | スイム+低強度ラン |
| 木 | ランのテンポ/閾値トレーニング |
| 金 | 軽いスイムまたは休養 |
| 土 | ロングライド+短いブリックラン |
| 日 | 低強度のロングラン |
これはあくまで一例です。
初心者ならセッション数を減らし、回復日を増やした方がよい場合もあります。
また、3種目すべてで毎週高強度を行う必要もありません。
自分の弱点、目標レース、使える時間をもとに、重要なセッションを優先することが大切です。
心拍・HRV・負荷をどう活用する?
トライアスロンでは種目が変わるため、距離だけでトレーニング量を比較することが難しくなります。
例えば、
10kmランニング。
60kmサイクリング。
3,000mスイム。
これらを距離だけで比べても、身体への負荷は判断できません。
そこで、
- 心拍
- 運動時間
- トレーニング強度
- トレーニング負荷
- HRV
- 睡眠
- 主観的な疲労感
などを組み合わせて振り返ります。
HRVについては、1日の数値だけで良し悪しを判断するのではなく、自分自身の通常範囲との変化を見ることが大切です。
▶︎ HRV(心拍変動)とは?正常値の見方と回復・トレーニングへの活かし方
回復状態を複数の指標から確認する方法はこちら。
▶︎ トレーニング後の回復を確認する4つの方法|HRV・睡眠・負荷・感覚をチェック
Suuntoで3種目をまとめて管理する
トライアスロンでは、スイムだけ、バイクだけ、ランだけを見るのではなく、3種目をひとつのトレーニングとして管理することが重要です。
SuuntoウォッチとSuuntoアプリでは、さまざまなスポーツの記録をまとめて振り返ることができます。
例えば、
- スイムの距離・時間
- バイクの心拍・速度・トレーニング負荷
- ランニングのペース・心拍
- 週間・長期的なトレーニング量
- 睡眠
- HRV
などを確認しながら、自分のトレーニング全体を振り返れます。
トライアスロンのトレーニングとレースにSuunto Race 2
Suunto Race 2は、ランニングだけでなく、スイム、サイクリングなど複数のスポーツを組み合わせてトレーニングするアスリートにも活用できます。
重要なのは、ひとつの数値だけでトレーニングを決めることではありません。
3種目の負荷、回復、身体の感覚をまとめて振り返り、次に何をするか判断する。
マルチスポーツだからこそ、その視点が役立ちます。

© KMD Ironman Copenhagen
まとめ|3種目だけでなく「回復」までトレーニングする
トライアスロンのトレーニングでは、スイム・バイク・ランの3種目をすべて増やせば強くなるわけではありません。
- ロングセッションで持久力を作る
- 高強度トレーニングで閾値を高める
- 3種目を合計したトレーニング負荷を見る
- 自分の弱点に合わせて種目の比率を変える
- 十分な食事でトレーニングを支える
- レース前はテーパリングで疲労を減らす
- ロングレース後は回復を優先する
- 競技を楽しめているかも忘れない
Patrik Nilssonが8時間を切るアイアンマンを達成した背景には、大きなトレーニング量がありました。
しかし、一般のトライアスリートが参考にしたいのは、その量そのものではありません。
目的の違うトレーニングを組み合わせ、疲労を管理し、必要なときには休むこと。
スイム、バイク、ラン。
そして回復。
この4つをひとつのトレーニング計画として考えることが、長くトライアスロンを続けるための土台になります。
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