たった一度の呼吸で、水深100mの世界へ。
酸素ボンベを使わず、自分の呼吸だけで水中へ潜るフリーダイビングは、一見すると人間の限界に挑む特殊なスポーツに見えるかもしれません。
しかし、人間の身体にはもともと、水中に入ると自動的に働くさまざまな生理反応があります。
心拍数が下がる。身体の中心部へ血流が集まる。深くなるほど肺が圧縮される。
こうした変化を理解すると、フリーダイバーがなぜ一呼吸で深い海へ潜れるのか、その仕組みが少しずつ見えてきます。
この記事では、フリーダイビング中に身体で何が起きているのかを、Suuntoのインフォグラフィックとともに解説します。
フリーダイビングとは?
フリーダイビングとは、スキューバダイビングのような呼吸用タンクを使わず、一呼吸で水中へ潜るダイビングです。
競技としては近年注目を集めていますが、人間が息を止めて水中へ潜る行為そのものには非常に長い歴史があります。
魚や貝などを採るために潜る文化は、世界各地で古くから存在してきました。
現在のフリーダイビングには、深さや距離、息を止めている時間を競う競技だけでなく、海の中を静かに探索したり、仲間と水中世界を楽しんだりするスタイルもあります。
そして興味深いのは、私たち人間の身体にも、水中環境へ適応するための反応が備わっていることです。
【図解】深く潜ると身体はどう変化する?
まずは、フリーダイバーが水面から深い海へ潜っていくとき、身体にどのような変化が起きるのかを見てみましょう。

Graphic: © zooom.at / Adi Sumic
この図を見ると、水深が増すにつれて水圧が高まり、肺の容量が小さくなり、心拍数にも変化が起きることがわかります。
こうした一連の身体反応の中心にあるのが「ダイブ反射」です。
人間に備わる「ダイブ反射」とは
フリーダイビングを可能にしている重要な身体反応のひとつが、ダイブ反射(潜水反射)です。
顔が水に浸かると、身体は水中にいることを認識し、酸素の消費を抑えようとします。
その代表的な変化が心拍数の低下です。
心臓の拍動を遅くすることで酸素の消費量を抑え、限られた酸素をより長く使おうとします。
この反応は人間だけのものではなく、水中で生活する哺乳類などにも見られる生理的な仕組みです。
フリーダイバーは、こうした身体の反応を利用しながら、できるだけ無駄な酸素を使わずに水中へ潜っていきます。
約25mを超えると起こる変化
元記事では、約25m付近からダイブ反射がさらに強まり、心拍数が大きく低下すると説明されています。
同時に起きるのが、末梢血管収縮(vasoconstriction)です。
これは腕や脚など身体の末端への血流を減らし、心臓や脳など生命維持に重要な臓器へ血液を優先的に送る反応です。
つまり身体は、限られた酸素をできるだけ重要な場所へ残そうとします。
フリーダイビングでは「筋力で押し切る」よりも、こうした身体の自然な反応を妨げないよう、余計な力を抜くことが重要になります。
力を抜いて沈む「フリーフォール」
ある程度の深さまで潜ると、浮力の変化によって、ダイバーは大きく泳がなくても自然に沈んでいける状態になります。
この状態はフリーフォールと呼ばれます。
ここでは積極的に泳ぐのではなく、身体の力を抜きながら深い場所へ沈んでいきます。
世界トップレベルのフリーダイバーの中には、この時間を非常に心地よく感じる人もいます。
身体の動きを最小限にし、呼吸もなく、音の少ない水中をゆっくりと沈んでいく。
フリーダイビングならではの感覚を象徴する場面でもあります。

William Trubridge competing at Suunto Vertical Blue 2014 © Daan Verhoeven
水深100mで肺はどうなる?
水深が深くなるほど、水圧は高くなります。
インフォグラフィックでは、水面で約6Lあった肺容量が、水深100m付近では大きく圧縮される様子が示されています。
これは肺そのものが失われるわけではなく、周囲から受ける水圧によって、内部の空気が圧縮されるためです。
世界トップクラスのフリーダイバーでは、潜降速度が1秒あたり約1mに達することもあり、100m付近まで約1分30秒ほどで到達するケースもあります。
しかし、深く潜れば終わりではありません。
そこから同じ距離を水面まで戻る必要があります。
最も注意が必要なのは浮上の終盤
フリーダイビングで特に注意が必要なのが、浮上の最後の10mほどです。
深い場所では圧縮されていた空気が、水面に近づくにつれて急速に膨張します。
同時に、長時間息を止めていることで、身体の酸素量は少なくなっています。
そのため水面付近では、意識を失うブラックアウトのリスクが高まります。
深度を追求する競技では、安全管理を行うダイバーやスタッフが配置され、選手をサポートします。
フリーダイビングは、決して一人で限界を試すスポーツではありません。
実際に取り組む場合は、専門的な講習を受け、安全管理された環境で、必ずバディとともに行うことが重要です。
フリーダイビングは深さを競うだけではない
フリーダイビングというと、「何mまで潜れるか」という世界記録のイメージが強いかもしれません。
しかし、フリーダイビングの楽しみ方は競技だけではありません。
仲間と一緒に海へ入り、水中の景色を楽しむ。
静かな水中で、自分の呼吸や身体の感覚に集中する。
魚や地形を眺めながら、水中世界を探索する。
深さを追求しなくても、一呼吸で水の中に入るという体験そのものに魅力があります。
世界最高峰の選手たちが深度へ挑戦するフリーダイビング大会については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
▶︎ 水深100mの世界へ。世界最高峰のフリーダイビング大会「Vertical Blue」
Suuntoでフリーダイビングを記録する
フリーダイビングでは、自分自身の感覚と同じくらい、ダイブを振り返るためのデータも役立ちます。
どのくらいの深さまで潜ったのか。
ダイブ時間はどのくらいだったのか。
どのくらいの速度で潜降・浮上したのか。
こうした情報を記録しておくことで、自分のダイブを後から確認しやすくなります。
ダイビングもスポーツも楽しむなら「Suunto Ocean」
Suunto Oceanは、ダイブコンピューターとGPSスポーツウォッチの機能をひとつにまとめたモデルです。
フリーダイブモードでは、水中ビューと水面ビューを使ってダイブを確認でき、深度、ダイブタイム、上昇・下降速度に関するアラートにも対応しています。
さらに、ダイビング以外のスポーツや日常のアクティビティも記録できるため、海の中と陸上の両方を楽しみたい人に適しています。
Suuntoには、ダイビングに特化したSuunto Nautic / Nautic Sなどのダイブコンピューターもあります。
用途やダイビングスタイルに合わせて選びたい方はこちらをご覧ください。
まとめ|自分の身体を知ることから始まる
フリーダイビングは、一呼吸で水中へ潜るというシンプルなアクティビティです。
しかしその裏では、心拍数の低下、血流の変化、水圧による肺の圧縮など、人間の身体に備わったさまざまな反応が働いています。
そして深く潜るために必要なのは、単純に「頑張ること」ではありません。
身体の反応を理解し、余計な力を抜き、自分自身の状態をコントロールすること。
記録を競う人も、水中世界を楽しむ人も、フリーダイビングの入口にあるのは、自分の身体を知ることです。
次に海へ入るときは、水面の下で自分の身体にどんな変化が起きているのか、少し意識してみてはいかがでしょうか。
Main image © zooom.at / Agustin Munoz