100マイルウルトラマラソンを走り切るには、速く走る力だけでは足りません。スタート直後にペースを上げすぎないこと、補給を早い段階から続けること、その日の身体の状態に合わせて計画を調整すること、そして苦しい時間帯を乗り越えるメンタルも重要です。
100マイルは約160km。
山岳レースなら、長い登りや下り、夜間走、気温変化、胃腸のトラブル、睡魔など、時間が長くなるほどさまざまな問題が出てきます。
リトアニアのウルトラランナーGediminas Griniusは、世界有数の100マイル級レースUTMBで170kmを走り、2位に入りました。
彼が大切にしているのは、最初から限界まで攻めることではありません。
落ち着いてスタートし、自分のペースと補給を守り、その日の身体に合わせて最後までレースを組み立てること。
この記事ではGediminasの経験をもとに、100マイルウルトラを「レース当日の時間軸」に沿って走り切るための考え方を紹介します。

Gediminas preparing mentally before an ultra marathon in Japan. © Gediminas Grinius
レース当日の朝|いつものルーティンを守る
100マイルのような大きなレースでは、スタート前から緊張しやすくなります。
周囲のランナーが補給を始めたり、ウォームアップをしたりしていると、「自分も何かしなければ」と不安になることもあります。
Gediminasが大切にしているのは、他人に合わせるのではなく、自分が普段やってきたルーティンを守ることです。
本人はレース前に家族と過ごし、できるだけ普段通りの気持ちでスタートを迎えるようにしていました。
100マイルでは、スタート前から余計なエネルギーを使う必要はありません。
- 前日に準備した装備をもう一度確認する
- 普段と大きく違う朝食を試さない
- 必要以上に早く会場へ行って疲れない
- 周囲の緊張に引っ張られない
レースはスタートラインに立つ前から始まっています。
まずは落ち着いた状態でスタートを迎えることを優先しましょう。
スタート直後|周囲についていかない
100マイルで最も避けたいことのひとつが、序盤のオーバーペースです。
スタート直後は、脚が軽く、気持ちも高ぶっています。
さらに周囲のランナーが速いと、自然とそのペースについていきたくなります。
しかしGediminasは、100マイルでは序盤に速く入りすぎたランナーが、後半に大きく失速するケースを何度も見てきたと話します。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
他人のペースを自分のペースにしない。
これが最初の原則です。
前半で数分を稼ぐことより、後半に走れる余力を残す方が重要です。
特にスタート直後は、
- 呼吸に余裕があるか
- 心拍が想定以上に上がっていないか
- 登りで無理に走っていないか
- 周囲につられてペースが上がっていないか
を確認しましょう。
100マイルは、前半で勝負を決めるレースではありません。
序盤に使わなかった体力が、後半の選択肢になります。
序盤から補給ルーティンを始める
Gediminasがスタート直後から重視しているもうひとつのポイントが、補給ルーティンを守ることです。
100マイルでは、空腹を感じてから食べ始めるのでは遅くなる場合があります。
本人は、
- 時間を基準にする
- エイドステーションを基準にする
など、自分で決めた補給のタイミングを早い段階から維持していました。:contentReference[oaicite:2]{index=2}
大切なのは「何分ごとなら正解」という万能な数字ではありません。
レース前のロングランで、
- 何を食べられるか
- どのくらいの頻度なら胃腸が受け入れられるか
- ジェル・固形物・ドリンクをどう使い分けるか
- 暑い時間帯と寒い時間帯で何を変えるか
を試しておきます。
補給も、100マイルのトレーニングの一部です。
序盤〜中盤|その日の身体を見極める
Gediminasは自分自身について、「最初から調子よく走れるタイプではない」と話しています。
本人にとって最初の30〜40kmは、身体がレースへ馴染んでいく時間でした。そこを過ぎると、その日の身体がどの程度動くのかを判断しやすくなったといいます。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
もちろん、一般のランナーが「最初の40kmはウォームアップ」と考える必要はありません。
参考にしたいのは、序盤の数時間でその日の状態を冷静に観察するという考え方です。
例えば、
- 脚は想定より重いか軽いか
- 呼吸は安定しているか
- 心拍は普段と比べて高すぎないか
- 補給を問題なく続けられているか
- 胃腸の状態はどうか
- 暑さ・寒さへの対応はできているか
を確認します。
調子が良いからといって急にペースを上げる必要はありません。
反対に、予定より身体が重いなら、早い段階でペースを下げる判断も重要です。
レース前に作った計画より、レース当日の身体の反応を優先する。
100マイルでは、この柔軟さが重要になります。

© Gediminas Grinius
一人で頑張りすぎず、周囲の力も使う
レースが落ち着いてくると、Gediminasは他のランナーと一緒に進むこともあります。
同じくらいのペースのランナーがいると、精神的に楽になったり、集中を保ちやすくなったりするからです。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
100マイルでは、長い時間を一人で走ることもあります。
そんな中で、
- 同じペースのランナーとしばらく進む
- エイドでスタッフと会話する
- サポートしてくれる人と短く話す
ことが、気持ちを切り替えるきっかけになる場合があります。
ただし、誰かと走ることを優先して、自分のペースを崩してはいけません。
「一緒に走ると楽になる」と「相手について無理をする」は別です。
苦しい時間帯|「ずっと続く」と思わない
100マイルでは、ずっと気持ちよく走り続けられるとは限りません。
脚が重くなる。
眠くなる。
食べたくなくなる。
登りが終わらないように感じる。
「なぜこんなことをしているんだろう」と考える。
Gediminasも、長いウルトラでは苦しい時間帯は避けられないと考えています。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
そこで大切なのが、今感じている苦しさを「この先ずっと続く」と決めつけないことです。
100マイルでは、数十分前まで最悪だったのに、食事をとったり、気温が下がったり、登りが終わったりすることで急に回復することがあります。
反対に、絶好調だった状態が突然崩れることもあります。
ウルトラでは、状態が変わることそのものが普通です。
苦しいときは、160km全体を考えるのではなく、
- 次のエイドまで
- 次の登りの頂上まで
- 日が昇るまで
- 次の補給まで
と目標を小さく区切ってみましょう。
強い痛み、体調不良、意識状態の変化などがある場合は「我慢すれば過ぎる」と考えず、安全を優先して大会スタッフや医療スタッフへ相談してください。
メンタルゲームを自分で用意しておく
Gediminasは、苦しい時間を乗り切るためにイメージを使ったメンタルゲームを取り入れています。
日本のUltra-Trail Mt. Fujiを走った際には、自分を「侍」に見立て、困難と戦うイメージを作っていました。:contentReference[oaicite:6]{index=6}

© Gediminas Grinius
同じ方法が全員に合うわけではありません。
ただ、苦しくなってから初めて「どうしよう」と考えるより、自分なりの気持ちの切り替え方を事前に用意しておくことには意味があります。
例えば、
- 次のエイドだけを考える
- 好きな景色を思い浮かべる
- 家族や仲間から言われた言葉を思い出す
- 「ここまで来た距離」を振り返る
- ランニングフォームだけに集中する
- 一定回数の呼吸を数える
などです。
苦しさを完全になくすことではなく、注意を別の場所へ移しながら、次の一歩を続けるための方法を探しましょう。
100マイル後半のメンタルについては、こちらの記事も参考になります。
▶︎ 100マイルの「Pain Cave」とは?Courtney Dauwalterに学ぶ苦しい時間との向き合い方
終盤|ポジティブな感情を使う
レース終盤、Gediminasは意識的にポジティブな感情を生むことを考えます。
本人の場合は、家族のことを思い出します。
夜通しレースを支えてくれた家族への感謝や、フィニッシュで再会する瞬間を想像することで、もう一度前へ進む力を得ていました。:contentReference[oaicite:7]{index=7}
100マイルの終盤では、脚だけでなく、「なぜ走っているのか」という理由が大きくなることがあります。
タイム。
完走。
家族。
友人。
自分で決めた目標。
ここまで積み上げてきたトレーニング。
フィニッシュまで持っていきたい自分なりの理由を、レース前にひとつ考えておく。
それが終盤で役立つことがあります。

© Gediminas Grinius
100マイルのペース配分で意識したいこと
Gediminasのアドバイスを整理すると、100マイルのペース戦略で大切なのは「最初から最後まで一定のスピードで走ること」ではありません。
山岳ウルトラでは、登り、下り、平坦、夜間、気温などによって速度は大きく変わります。
見るべきなのは、スピードそのものより身体への負荷です。
序盤
余裕を残します。
「少し遅すぎるかな」と感じるくらいでも、100マイルでは後半に意味を持つことがあります。
中盤
脚、胃腸、心拍、気温などを確認し、その日の状態に合わせて調整します。
終盤
まだ余力があるなら、少しずつ使います。
前半で余裕を使い切っていなければ、ここで初めて「頑張る」という選択肢を持てます。
低強度で長く動き続ける土台を作る方法はこちら。
▶︎ ゾーン2ランニングとは?心拍数の目安・効果・やり方を解説
普段のイージーランを速くしすぎないことも、100マイルへ向けた持久力づくりでは重要です。
▶︎ イージーランが速すぎる?ランニングの「トレーニング・ブラックホール」とは
100マイルでウォッチをどう使う?
100マイルでは、スポーツウォッチは「速く走るため」だけでなく、長時間のレースを落ち着いて管理するためにも活用できます。
例えば、
- 経過時間
- 心拍
- 累積標高
- ルート
- 次の区間までの距離
- バッテリー残量
などを確認できます。
ただし、ウォッチに表示されるペースだけを追い続ける必要はありません。
トレイルでは勾配や路面によってペースが大きく変わるため、心拍、呼吸、脚の感覚、周囲の状況を合わせて判断することが大切です。
長時間の山岳ウルトラならSuunto Vertical 2
Suunto Vertical 2は、100マイルをはじめとする長時間の山岳アクティビティで、オフラインマップやルートナビゲーションを活用したいランナー向けの選択肢です。
事前にルートを確認し、レース中に現在地やコースを確認するためにも活用できます。
ただし、大会のマーキングや公式情報を優先し、ウォッチだけに依存しないようにしてください。
トレーニングからレースまで管理するならSuunto Race 2
Suunto Race 2は、100マイルへ向けた日々のトレーニング負荷、心拍、回復などを振り返りながら、レースでも活用したいランナー向けです。
100マイルで大切なのは、数字に支配されることではなく、数字を判断材料のひとつとして使うこと。
最終的には、自分の身体とレース環境を見ながら進みましょう。
Suunto Vertical 2を見る Suunto Race 2を見る
まとめ|前半で使わなかった力が後半の選択肢になる
100マイルウルトラを走り切るために必要なのは、スタートから限界まで頑張ることではありません。
- レース前はいつものルーティンを守る
- スタート直後は周囲についていかない
- 早い段階から補給を続ける
- 序盤でその日の身体の状態を確認する
- 調子が悪ければ早めにペースを落とす
- 苦しい時間帯が変化することを覚えておく
- 目標を次のエイドなど小さく区切る
- 自分なりのメンタルの切り替え方を用意する
- 終盤に使う体力と気持ちを残しておく
Gediminas Griniusの100マイル戦略をひと言でまとめるなら、「焦らないこと」かもしれません。
周囲が速くても焦らない。
序盤に調子が悪くても焦らない。
苦しい時間が来ても焦らない。
逆に調子が良くても、すぐすべての力を使わない。
前半で使わなかった力が、100kmを越えた後の選択肢になります。
100マイルは、一番速くスタートする人ではなく、自分の身体と対話しながら最後まで進み続けた人がフィニッシュへたどり着けるレースです。
100マイル・ウルトラ関連記事
- ウルトラマラソン後の回復方法|翌日から1か月のリカバリーと練習再開
- 連日のトレイルレースを走り切るには?|練習・装備・補給5つのポイント
- ゾーン2ランニングとは?|心拍数の目安・効果・やり方を解説
- イージーランが速すぎる?|トレーニング・ブラックホールとは
- トレランの登りを速くするには?|持久力・筋力・テクニックを鍛える方法
- 登りを速くするインターバル練習|VO2max・乳酸閾値の鍛え方
- HRV(心拍変動)とは?|回復・トレーニングへの活かし方
Images © Gediminas Grinius