ランニングのトレーニングでは、毎回速く走れば強くなれるわけではありません。イージーランや回復走を予定より速く走り、高強度トレーニングでは十分に追い込めない——。そんな中途半端な運動強度に偏ってしまう状態は、「トレーニング・ブラックホール」と呼ばれています。
「今日はゆっくり走る日」と決めていたのに、調子がいいから少しペースを上げる。後ろから来たランナーに抜かれたくなくて、さらに速くなる。
一度なら大きな問題にならなくても、これが毎回続くと、低強度トレーニングで十分に回復できず、本当に強度を上げたいインターバルやテンポ走でも質を出しにくくなります。
大切なのは、すべてのランニングを頑張ることではなく、その日の目的に合った強度で走ること。
この記事では、ランニングの「トレーニング・ブラックホール」とは何か、なぜイージーランが速くなりすぎるのか、そして心拍ゾーンやSuunto ZoneSenseを使ってトレーニング強度を管理する方法を紹介します。
トレーニング・ブラックホールとは?
トレーニング・ブラックホールとは、低強度でも高強度でもない、中途半端な運動強度にトレーニングが偏ってしまう状態を指します。
本来ゆっくり走る予定だったイージーランは、気持ちよく感じる程度まで少しずつ速くなる。
一方で、本当に負荷をかけたい高強度インターバルは苦しいため、無意識のうちに少し強度を落としてしまう。
すると、トレーニング強度が次第に真ん中へ集まっていきます。

この状態が問題になるのは、トレーニングごとの目的が曖昧になるからです。
低強度の日には、比較的少ない負荷で有酸素能力を育てたり、身体を回復させたりする役割があります。
高強度の日には、心肺やスピードに強い刺激を与える役割があります。
ところが毎回「そこそこ苦しい」強度で走ると、回復には強すぎるのに、高強度トレーニングとしては刺激が足りないという状況になりやすくなります。
なぜイージーランは速くなりすぎるのか
ランナーがトレーニング・ブラックホールに入りやすい場面のひとつが、イージーランや回復走です。
理由はとてもシンプルです。
- 今日は身体が軽い
- いつもより速く走れそう
- 周囲のランナーに抜かれたくない
- ゆっくり走るとトレーニングをしていない気がする
- 走り始めると自然にいつものペースへ戻ってしまう
特にランニング経験が増えてくると、「遅く走ること」の方が意外と難しくなることがあります。
しかし、イージーランの目的が回復や有酸素持久力の向上なら、速く走れたかどうかではなく、設定した低強度を守れたかどうかが重要です。
低強度の日が速すぎると何が起こる?
イージーランを少し速くしたからといって、それだけでトレーニングが失敗するわけではありません。
問題は、それが習慣になったときです。
低強度の日に予定以上の負荷をかけると、次のトレーニングまでに疲労が十分に抜けない可能性があります。
すると、本来しっかり追い込みたいインターバルトレーニングやテンポ走で、思うような強度を出せなくなります。
そして高強度の日も少し楽なペースで終わる。
次のイージーランではまた少し頑張る。
「楽な日は速すぎ、速い日は遅すぎる」状態が繰り返されるわけです。
これが、トレーニング・ブラックホールの厄介なところです。
トップアスリートでもブラックホールに入る
この問題は、初心者だけに起きるものではありません。
元記事では、ノルウェーのトップボート競技選手オラフ・トゥフテ(Olaf Tufte)の例が紹介されています。
世界選手権で好成績を残したあと、新しいボートを手に入れた彼はトレーニングへのモチベーションがさらに高まりました。
ところが、新しいボートが気持ちよく進むため、回復を目的とした日まで以前より速く漕ぐようになります。
トレーニングメニューそのものは大きく変わっていないのに、その後のレース結果は伸び悩みました。
原因を振り返ると、回復日に増えたわずかな強度が、身体のリカバリーを妨げていたことがわかったのです。
能力が高いアスリートほど、「もっとできる」と感じる日があります。
しかし、できるからといって毎回やる必要はありません。
イージーランはどのくらいの強度で走る?
では、イージーランはどのくらいの強度がいいのでしょうか。
万人に共通するひとつのペースがあるわけではありません。
5分/kmが楽な人もいれば、7分/kmでも負荷が高い人もいます。また、同じ人でも気温、疲労、睡眠、コースのアップダウンによって、その日の身体への負荷は変わります。
そのため、イージーランでは「何分/kmで走るか」だけでなく、身体にどれくらい負荷がかかっているかを見ることが大切です。
一般的には、会話を続けられるくらいの余裕があり、息が大きく乱れない強度がひとつの目安になります。
Suuntoのトレーニングでは、心拍ゾーンなどを利用して、その日の目的に応じた強度を確認することもできます。
高強度の日はしっかり強度を上げる
ブラックホールを避けるためには、イージーランを遅くするだけでは不十分です。
もう一方のポイントは、高強度トレーニングの日には、その目的に合った強度までしっかり上げることです。
例えばインターバルトレーニングでは、速い区間と回復区間を明確に分けます。
高強度区間ではしっかり負荷をかけ、回復区間では次のセットへ備えて強度を下げる。
すべてを同じようなペースで走るのではなく、目的に応じて強弱をつけることで、それぞれのトレーニングの役割が明確になります。
もちろん、高強度の日だからといって毎回限界まで追い込む必要はありません。
重要なのは、そのセッションで狙っている運動強度を理解することです。
心拍ゾーン・ペース・パワーで強度を管理する
感覚だけで強度を管理するのが難しい場合は、数値を活用する方法があります。
ランニングでは主に、次のような指標を使えます。
- 心拍数:身体への負荷を見る
- ペース:走るスピードを見る
- ランニングパワー:走行時の出力を見る
Suuntoウォッチでは、トレーニング中に設定した強度ゾーンを確認できます。
「今日は低強度の日」と決めたなら、そのゾーンから必要以上に上がっていないかをチェックする。
インターバルの日なら、高強度区間で狙ったゾーンに入っているかを見る。
こうしてトレーニングの目的と実際の強度を合わせることが、ブラックホールを避ける基本になります。

ZoneSenseで身体の反応から強度を見る
心拍ゾーンはトレーニング強度を管理するための便利な方法ですが、身体の状態は毎日同じではありません。
同じペース、同じ心拍数でも、疲労や回復状態、気温、長時間運動による変化などによって、実際に身体が受けている負荷は変わります。
Suunto ZoneSenseは、心拍変動(HRV)のデータを利用し、運動中の身体の反応から強度を分析する機能です。
強度を有酸素・無酸素・VO2maxの3つの領域として捉えることで、今の運動がどの程度の負荷になっているかを確認できます。
例えばイージーランでは、有酸素領域を保ちながら走ることで、知らないうちに強度を上げすぎるのを防ぐ目安になります。
テンポ走では無酸素領域、より強度の高いインターバルではVO2max領域を確認するなど、トレーニングの目的によって使い分けられます。
ZoneSenseを利用した強度分析には心拍ベルトを使います。対応するSuuntoウォッチでは、トレーニング中にリアルタイムで強度を確認することもできます。
感覚を無視して数字だけで走るための機能ではありません。
自分の感覚と身体のデータを照らし合わせながら、その日の適切な強度を理解するためのツールとして活用できます。
回復もトレーニングの一部
ランナーは「何をすれば強くなれるか」を考えるとき、ついトレーニングを増やす方向へ目を向けがちです。
しかし、トレーニングで身体に刺激を与えたあと、その刺激に適応するためには回復する時間が必要です。
そのため、イージーランを本当にイージーにすることには意味があります。
休養日を取ることにも意味があります。
睡眠を十分に確保することも、次の質の高いトレーニングにつながります。
「今日はもっと走れそう」な日にあえて抑えることも、長期的にはトレーニングの一部です。
トレーニング負荷や回復状態を振り返りながら、1回のランだけではなく、数日・数週間単位でバランスを見ることが重要です。
強度を意識したランニングをサポートするSuunto
ランニングトレーニングで心拍、ペース、トレーニング強度を継続的に確認したいなら、スポーツウォッチを活用する方法もあります。
Suunto Race 2は、日々のトレーニングからレースまで、運動強度やトレーニングデータを確認しながら走りたいランナー向けのパフォーマンスウォッチです。
より軽量なウォッチを求めるランナーには、ランニングにフォーカスしたSuunto Runという選択肢もあります。
ただし、ウォッチを着けるだけでトレーニングが最適になるわけではありません。
大切なのは、「今日は何のために走るのか」を決め、その目的に合った強度を選ぶこと。
データは、その判断をサポートするために使います。
まとめ|「毎回そこそこ頑張る」から抜け出そう
イージーランの日なのに、つい速く走ってしまう。
インターバルの日なのに、疲労が残っていて十分な強度まで上げられない。
そんな状態が続いているなら、トレーニング・ブラックホールに入りかけているのかもしれません。
抜け出すために大切なのは、とてもシンプルです。
- 楽な日は、本当に楽な強度で走る
- 高強度の日は、目的に応じてしっかり負荷をかける
- 心拍ゾーンやZoneSenseで強度を確認する
- 疲労が強いときは回復を優先する
すべてのランを速くする必要はありません。
むしろ、速く走る日と抑えて走る日を明確に分けることが、質の高いトレーニングにつながります。
次のイージーランで調子が良く、「今日はもう少し速く走れそう」と感じたときこそ、その日の目的を思い出してみてください。
速く走らないことが、次に速く走るための準備になることもあります。
Lead image © Graeme Murray / Red Bull Content Pool