UTMB World Series Finalsの主要レース「CCC」で、SuuntoアスリートのYao Miaoが3位に入りました。8年ぶりとなるCCCへの復帰。しかもレース3週間前には膝の古傷が再発し、トレーニング計画を大きく変更しての表彰台でした。
このレースで注目したいのは、3位という結果だけではありません。
6週間で878km・累積標高31,234mを積み上げたトレーニング。膝の痛みが出てからの負荷調整。そしてレース中には、心拍、ペース、パワーなどのデータと身体の状態を見ながら戦略そのものを変更しました。
トップトレイルランナーは、Suuntoのデータをどうトレーニングやレース判断に活用しているのでしょうか。
UTMB CCCでのYao Miaoの走りを、SuuntoウォッチとSuuntoアプリに記録されたデータとともに振り返ります。

UTMB CCCとは?
CCCは、フランス・シャモニーを中心に開催されるUTMB World Series Finalsの主要レースのひとつです。
UTMB Mont-Blancのレースウィークには複数のカテゴリーがあり、CCCはクールマイユールからシャモニーを目指す100kmクラスの山岳トレイルレースです。
世界各地のUTMB World Seriesを勝ち上がったトップアスリートも集まり、距離だけでなく、長い登り下り、標高、変化する天候などへの対応力が求められます。
2026年大会では悪天候に伴う緊急のコース変更が行われ、予定されていた約101kmから107.8km・累積標高6,198mへと延長されました。
激しい雨によってトレイルは滑りやすい泥道となり、過去6年間のCCC歴代優勝者3人がそろう女子レースは非常にハイレベルな戦いになりました。
SuuntoはUTMB World Seriesの公式GPSウォッチおよびテクニカルパートナーとして、世界各地のトレイルランナーをサポートしています。
▶︎ Suunto × UTMB World Series|アスリート・レース・トレイルランニング情報を見る
Yao Miaoとは?
Yao Miaoは、中国を代表するトレイルランナーのひとりであり、Suuntoアスリートです。
中国・雲南省麗江を拠点に、標高2,400mを超える高地環境でトレーニングを続けています。
シャモニーでの実績も長く、今回のCCCを含め、UTMB Finalsの舞台で何度も表彰台に立ってきました。
ただし、現在のYaoの強さは走る才能だけで作られたものではありません。
以前は感覚や経験を頼りにすることも多かったトレーニングを、現在では、
- 心拍
- トレーニング負荷
- 登坂量
- 筋力
- テクニカルな下り
- 栄養
- 回復
まで含めた、より体系的なアプローチへ変えています。
Yaoが普段どのようにトレイルランニングを鍛えているかは、こちらの記事で詳しく紹介しています。
▶︎ トレイルランニングで速くなるには?トップアスリートYao Miaoの心拍・筋力・登り・下りを鍛えるトレーニング
Yao MiaoとSuunto|データを判断に使う
Yaoのトレーニングで重要になっているのが、SuuntoウォッチとSuuntoアプリに蓄積されるデータです。
トレイルランニングでは、ロードのように1kmあたりのペースだけで運動強度を判断することが難しくなります。
急な登りではペースが遅くても心拍は高くなり、長い下りではペースが速くても、心肺より脚へ大きな負荷がかかることがあります。
そのためYaoは、
- 心拍数
- 心拍ゾーン
- ペース
- ランニングパワー
- 距離
- 累積標高
- トレーニング負荷
- 回復状態
などを組み合わせてトレーニングを振り返っています。
データがレースを走るわけではありません。
データを判断材料にして、最後にどう走るかを決めるのはアスリート自身です。
今回のCCCは、その使い方がよく見えるレースになりました。
8年ぶりのCCCで3位
YaoにとってCCCへの出場は8年ぶりでした。
107.8kmのコースを12時間15分41秒で走り、女子3位でシャモニーへフィニッシュ。
シャモニーで表彰台に立つのはこれで5回目です。
長年トップレベルで走り続けられる理由を聞かれたYaoの答えは、非常にシンプルでした。
「努力あるのみ。」
しかし今回のレースでは、単純に努力量を増やせばよかったわけではありません。
むしろ重要だったのは、努力することと、負荷を下げるべきタイミングを判断することでした。
6週間で878km・累積標高31,234m
CCCまでの6週間、Suuntoアプリに記録されたYaoのトレーニング量は、
- トレーニング時間:98時間34分
- 走行距離:878km
- 累積標高:31,234m
でした。

SuuntoアプリのTraining Zoneに記録された6週間のトレーニング量。98時間34分、878km。

6週間の累積標高は31,234m。トレイルレースでは距離だけでなく、どれだけ登ったかも重要なトレーニング指標です。
平均すると週16時間以上のトレーニングと、5,000mを超える累積標高です。
標高2,400mを超える麗江での生活とトレーニングに加え、レース約1か月前にはシャモニーへ入り、アルプスの環境へ身体を適応させました。
CCCへ向けた有酸素能力と登坂持久力の土台は十分にできていました。
しかし、レース3週間前に計画が崩れます。
レース3週間前、膝の古傷が再発
8月8日、ゴールデントレイル・ワールドシリーズのスイス大会で、Yaoは膝の古傷を悪化させました。
ここで彼女が選んだのは、予定していたトレーニングを何とか続けることではありません。
負荷を大きく下げることでした。
翌週の累積標高は約5,000mから約1,300mへ減少。70%以上減らし、トレーニングの多くをリハビリとアクティブリカバリーへ切り替えました。
レース直前になると、「ここまで練習してきたのだから、もう少し積んでおきたい」と考えがちです。
しかし、痛みがある状態で負荷を追加すれば、スタートラインに立てなくなる可能性もあります。
Yaoは不足したトレーニングを取り戻すのではなく、すでに作ったフィットネスを活かせる状態へ戻すことを優先しました。
CTL・ATL・TSBを見ながら負荷を調整
その変化はSuuntoアプリのTraining Zoneにも表れています。
山での高負荷セッションが続いた時期には、長期的なトレーニング負荷に対して短期的な疲労が大きくなっていました。
そこから負荷を減らしたことで、レース前の最終週には、
- Fitness(CTL):117
- Fatigue(ATL):68
- Form(TSB):+40
となりました。

レース前のTraining Zone。CTL 117、ATL 68、TSB +40。
CTLはわずかに下がりましたが、ATLはそれ以上の速さで低下しました。
つまり、フィットネスを完全に維持しようとするより、疲労を抜いてレースを走れる状態へ戻すことを優先したわけです。
CTL・ATL・TSBの意味はこちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎ CTLとは?トレーニング負荷の見方と上げ方|ATL・TSBとの違いも解説
心拍ゾーンからトレーニング内容を見る
Yaoはトレーニング量だけでなく、どの強度でトレーニングしたかも確認しています。
6週間で心拍ゾーンに記録されたトレーニング時間は約91時間。
そのうち、
- ゾーン2:約31時間3分
- ゾーン3:約25時間30分
と、低〜中強度の有酸素トレーニングに多くの時間を使っていました。

膝を痛めてからは、最大に近いゾーン5の時間を減らしながら、よりレース強度に近い持続的な運動へ重点を移しました。
「予定していたメニューを守ること」より、「今の身体でCCCを走るために必要な刺激を選ぶこと」が優先されています。
心拍ゾーンについて詳しく知りたい場合はこちら。
▶︎ 心拍ゾーンとは?ゾーン1〜5の意味・計算方法・トレーニングへの使い方
CCC本番|序盤の登りから攻める
そしてレース当日。
CCCの序盤から大きな登りが待っていました。
最初の約9.4kmで、Tête de la Troncheまで約1,400mを登ります。最大勾配は35%。
Yaoはここを抑えて入るのではなく、積極的に進みました。
最初の10kmは平均心拍数約169bpm。女子トップで最初のチェックポイントへ到着しています。

CCC序盤10kmのSuuntoデータ。急な登りではペースだけでなく、標高変化と心拍を合わせて見ることが重要です。
トレイルランニングでは、登りになると1kmあたりのペースは大きく低下します。
ロードランの感覚で「遅い」と判断することはできません。
だからこそ、心拍、標高、パワー、体感などを組み合わせて運動強度を判断することが重要になります。
下りで膝が悪化、レース戦略を変更
序盤の登りを終えると、今度は約20kmにわたる長い下りが待っていました。
Yaoは30〜40km区間を4:50/km、40〜50km区間を4:32/kmまでペースアップ。
しかし、長い下りによって膝の痛みが悪化します。

ここでYaoは、スタート前に考えていたレース戦略を変更しました。
当初は、
- 登りでエネルギーを温存する
- 下りは通常どおり走る
- 平坦区間で攻める
というプランでした。
ところが、下りで膝の痛みが強くなったことで、
- 痛みの少ない登りでペースを上げる
- 下りと平坦区間では無理をしない
という戦略へ切り替えました。
レースプランは、スタート前に作れば終わりではありません。
天候、身体、ライバル、コース状況に合わせて更新していくものです。
心拍・ペース・パワーでレースを見る
Suuntoアプリに残ったデータを見ると、Yaoが地形に合わせて走り方を変えていることが分かります。

10kmごとのペース、登下降、平均心拍数。トレイルではペースだけでなく地形との関係を見ることが重要です。
70〜80km区間では累積標高1,155mを登り、平均ペース9:24/km、平均心拍156bpm、ランニングパワー約145W。
急な登りでペースだけを見ると遅く感じますが、心拍やパワーを見ると高い運動強度を安定して維持していることが分かります。

トレイルでは、
速い=頑張っている
とは限りません。
登りではペースが遅くても高強度になり、下りでは速いペースでも心肺とは別に脚へ大きな負担がかかります。
Yaoのデータは、トレイルランニングで複数の指標を見る意味をよく表しています。
終盤に抜かれても崩れなかった理由
終盤には、疲労、雨で滑りやすくなったトレイル、そして膝の痛みが重なりました。
Yngvild KaspersenとToni McCannに抜かれ、Yaoは3位へ。
それでもレースそのものは崩れませんでした。
地形によってペースを落としながらも、心拍数はおおむね145〜150bpmを維持。
最後の登りを越えたあと、ラスト6.1kmは平均6:11/kmまで再びペースを上げています。

レース順位を守るために無理をしてすべての区間を同じ強度で走ったのではありません。
使える場所で力を使い、リスクの高い場所では抑える。
その調整によって、最後まで走れる状態を維持しました。
Yao MiaoのSuunto活用法から学べること
今回のCCCは、Suuntoのデータをトップアスリートがどう使っているかを見るケーススタディでもあります。
1. トレーニング量を距離だけで見ない
Yaoは距離だけでなく、トレーニング時間と累積標高を確認しています。
トレイルでは、平坦な20kmと累積標高2,000mを含む20kmでは負荷が大きく異なります。
2. CTLだけでなくATLとTSBを見る
レース前に負荷を落とすとCTLが少し下がることがあります。
しかし、疲労を表すATLがより早く下がれば、レースへ向けた状態は改善することがあります。
「フィットネスの数字を下げたくない」ために無理に練習するのではなく、レースで走れる状態を作ることが目的です。
3. 心拍ゾーンでトレーニングの中身を見る
何時間走ったかだけでなく、どの心拍ゾーンで何時間トレーニングしたかを見ることで、低強度・中強度・高強度のバランスを確認できます。
4. レース中はペースだけを見ない
アップダウンの大きいCCCでは、ペースだけでは強度を判断できません。
心拍、ランニングパワー、高度変化、そして自分の感覚を合わせて判断します。
5. データより身体を優先する
最も重要なのはここです。
Suuntoのデータが「今日は走るべき」と命令するわけではありません。
膝の痛みが出たYaoはトレーニング量を70%以上減らしました。
データは身体から得られる情報と組み合わせて、次の判断を考えるために使います。
吉住友里選手もRace 2でレースを組み立てる
Suuntoを使ったトレイルレースの組み立て方は、Yao Miaoだけのものではありません。
日本のSuuntoブランドアンバサダー吉住友里選手も、UTMB World Seriesの一戦「Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB®」のKAGASPA 50Kで、Suunto Race 2を活用しています。
吉住選手はレース前の試走から、
- ルートナビゲーション
- 登り・下りの位置
- ラップ
- ペース
- 心拍数
- 累積標高
などを確認。
試走データと自分の感覚を組み合わせてタイムチャートを作り、本番後にはSuuntoアプリで心拍やラップを振り返っています。
Yao MiaoがCCCで見せた「データを使って状況に適応する走り」と、吉住選手がKaga Spaで実践する「データを使って事前にレースを組み立てる方法」。
2人の記事を合わせて読むと、Suuntoをトレイルレースでどう活用できるかがより具体的に見えてきます。
▶︎ KAGASPA 50K優勝・吉住友里選手が語る、Suunto Race 2でレースを組み立てる方法
まとめ|データは判断するために使う
Yao Miaoの2026年CCCは、完璧な準備から始まったレースではありませんでした。
膝を痛め、トレーニング量を大きく減らし、レース当日は雨によるコース変更、長い下り、痛み、さらにレース途中の予想外の中断にも対応する必要がありました。
それでも3位でフィニッシュできた背景には、6週間で積み上げてきた大きなトレーニングベースと、その後の状況に合わせて計画を変更できる柔軟性がありました。
そしてSuuntoのデータは、
- どれだけトレーニングしたか
- どの強度で走ったか
- どれくらい疲労しているか
- レース中にどの強度で進んでいるか
- どの区間でペースや心拍が変化したか
を振り返るための材料になっています。
数字に従って走るのではなく、数字を使って自分の状態を理解し、必要なら計画を変える。
それが、Yao MiaoのCCCから学べるSuuntoの活用法です。
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トレイルレースをSuunto Race 2で管理する
トレイルランニングでは、距離やペースだけではレース全体を把握できません。
心拍、標高、ルート、トレーニング負荷、回復までを継続して記録することで、レース前・レース中・レース後をひとつの流れとして振り返ることができます。
Suunto Race 2は、トレーニングとレースを継続して記録したいトレイルランナー向けのGPSスポーツウォッチです。
オフラインマップやルートナビゲーションを使ったコース確認に加え、心拍、ラップ、標高、トレーニング負荷などを記録し、Suuntoアプリで長期的な変化を確認できます。
トップアスリートと同じ数字を目指す必要はありません。
自分自身のデータを積み重ね、次のトレーニングやレース判断へつなげることが重要です。