UTMB OCCで優勝し、CCCでも勝利。それでもトップトレイルランナーのToni McCannは、結果を追い続ける中で「自分はなぜ走るのか」を見つめ直すことになりました。2025年のDNFを経て、2026年、彼女は再びシャモニーのUTMB CCCへ戻ります。
ただし、今回のスタートラインに立つToniは、以前とは少し違います。
「誰かの期待のためではなく、自分のために走る。」
勝利によって生まれた期待。思うような結果にならなかったレース。そして、トレーニングや山で過ごす時間そのものをもう一度楽しむこと。
今回のアスリートインタビューでは、Toni McCannに、シャモニーとの関係、UTMB CCC 2026への準備、回復との向き合い方、そして今の「走る理由」について聞きました。

シャモニーはToniにとってどんな場所?
シャモニーは、Toni McCannのトレイルランニングキャリアを語るうえで、特別な場所です。
2023年、UTMB World Series FinalsのOCCで優勝。
翌2024年には、より長い距離のCCCへステップアップし、そこでも勝利を収めました。
OCCからCCCへ。
距離が伸び、求められる持久力も変わる中で、2年続けてシャモニーで結果を残しました。
結果だけを見れば、すべてが順調に進んでいるように見えます。
しかしToniにとって、勝利は新しい課題の始まりでもありました。
勝つことで生まれたプレッシャー
レースで結果を残すと、次のレースでも結果を期待されるようになります。
「また勝つのではないか」
「今回も表彰台に上がるのではないか」
周囲からの期待だけでなく、自分自身の中にも「結果を出さなければ」という気持ちが生まれます。
Toniも、シャモニーで成功を重ねるにつれて、そのプレッシャーを感じるようになりました。
レースを楽しむことより、「結果を残さなければならない」という感覚が大きくなっていったのです。
トレイルランニングは本来、Toniが好きで続けてきたもの。
山で過ごすこと。
自分の身体を動かすこと。
難しいコースへ挑戦すること。
しかし、競技レベルが高くなるほど、順位や期待がそのシンプルな楽しさを覆ってしまうことがあります。
2025年のDNFから何を学んだ?
2025年、Toniは再びCCCに出場しました。
しかし、この年はフィニッシュラインまでたどり着くことができませんでした。
DNF。
勝利を経験してきたToniにとって、簡単に受け入れられる結果ではなかったはずです。
一方で、その経験によって、結果とは別の問いに向き合うことになりました。
「そもそも、自分はなぜ走っているのだろう?」
レースでは、順位やタイムという明確な結果が残ります。
勝った。
負けた。
完走した。
途中で終えた。
でも、アスリートとして成長する過程は、それだけでは測れません。
レースが思うようにいかなかったからこそ見えてくる課題もあり、その経験が次のトレーニングや考え方を変えることもあります。
UTMBを3度制したCourtney Dauwalterも、長いウルトラレースでは思い通りにいかない時間と向き合いながら前へ進んできました。
▶︎ Courtney DauwalterがUTMBで歴史的快挙|100マイル3冠への挑戦
なぜ「自分のために走る」と考えるようになった?
Toniにとって、この1年は結果へのプレッシャーから少し距離を置き、走ることとの関係を作り直す時間になりました。
彼女が大切にしているのは、シンプルな考え方です。
「誰かの期待のためではなく、自分のために走る。」
これは「結果を気にしない」という意味ではありません。
トップレベルでレースをする以上、もちろん勝利やパフォーマンスは重要です。
でも、結果だけを自分の価値にしない。
トレーニングを楽しむこと。
準備してきた自分を信じること。
山の中で走る時間を楽しむこと。
そして、自分自身が選んだ理由でスタートラインへ立つこと。
2026年のCCCでは、「何かを証明しなければならない」という感覚より、自分自身のために走る自由を大切にしています。
ウルトラランニングでは、身体だけでなくメンタルとの向き合い方も重要になります。
▶︎ 「Pain Cave」とは?コートニー・ドウォルターに学ぶ、限界で前に進むメンタル
CCCに向けて、どんなトレーニングをしている?
ToniのUTMB CCCへの準備は、ランニングだけではありません。
現在のトレーニングには、
- ランニング
- 山岳トレイルでのトレーニング
- 筋力トレーニング
- サイクリング
- リカバリー
- 山で過ごす時間
が組み込まれています。
CCCのような長距離の山岳レースでは、「たくさん走る」だけでは十分ではありません。
長い登りを進む持久力。
下りで繰り返される衝撃に耐える脚。
不整地で身体を安定させる筋力。
何時間も動き続けるための有酸素能力。
そして翌日のトレーニングにつなげる回復力。
複数の能力を組み合わせる必要があります。
Toniが目指しているのは、単純にトレーニングを「もっとハードにする」ことではありません。
CCCというレースに必要な身体を、バランスよく作ることです。
同じSuuntoアスリートのYao Miaoも、走行距離だけに頼るのではなく、心拍、登り、下り、筋力、回復を組み合わせたトレーニングへ移行しています。
▶︎ トレイルランニングで速くなるには?トップアスリートYao Miaoのトレーニング

回復について何を意識している?
この1年でToniが改めて学んだことのひとつが、いつ負荷をかけ、いつ回復するべきかを見極めることです。
トップアスリートでも、毎日同じコンディションではありません。
前日のトレーニング。
睡眠。
疲労。
日常生活でのストレス。
さまざまな要因によって、その日に身体が受け止められる負荷は変わります。
予定表にハードセッションが書かれているからといって、必ずその通りに行うことが最善とは限りません。
逆に、身体が十分回復していれば、質の高いトレーニングへ集中できます。
Toniはパフォーマンスだけを追うのではなく、自分の身体の声を聞きながらトレーニングを調整することも大切にしています。
▶︎ HRV(心拍変動)とは?回復・トレーニングへの活かし方
Suunto Race 2をどう活用している?
Toniのトレーニングとレースを支えているツールのひとつが、Suunto Race 2です。
ウォッチの役割は、「今日どうトレーニングすべきか」をToniの代わりに決めることではありません。
自分の身体とコースについて、判断するための情報を増やすこと。
ToniはHRVに基づく回復データを確認し、身体がどの程度回復しているのかを振り返ります。
トレーニング中やレースでは、心拍数も身体への負荷を確認するための材料になります。
さらにUTMB CCCのように長い登りと下りが続く山岳レースでは、Climb Guidanceを使って、これから待っている登りや下りを把握しながらペースを考えることができます。
特に長距離のレースでは、目の前の1kmだけではなく、数時間先まで考えながら走ることが重要です。
序盤の登りで頑張りすぎれば、後半にその負荷が返ってくることがあります。
逆に、コース全体を把握できれば、「ここは抑える」「この区間から動く」といった判断もしやすくなります。
テクノロジーは情報を示す。決断するのはToni自身。
それが彼女のデータとの向き合い方です。
UTMB Mont-Blancでは、SuuntoアスリートのAbby Hall、Iris Pessey、Dakota Jonesも、それぞれ異なる方法で登り・下りやレース全体のペースを組み立てています。
▶︎ UTMBをどう走る?Abby、Iris、Dakotaに学ぶトレイルレースのペース戦略
2026年、再びCCCへ
2026年、Toniは再びシャモニーへ戻ります。
CCCのコースそのものが、彼女のために変わるわけではありません。
同じ山。
同じ長い登り。
同じテクニカルな下り。
そして、同じフィニッシュ地点のシャモニー。

変わったのは、Toni自身と、そのコースとの関係です。
2023年にはOCCで勝ちました。
2024年にはCCCで勝ちました。
2025年にはフィニッシュできませんでした。
そのすべてを経験したうえで、2026年のスタートラインへ立ちます。
以前よりも「何かを証明しなければならない」という気持ちは小さくなりました。
代わりにあるのは、自分のトレーニングを信じ、自分が走りたいと思うレースをすること。
誰かの期待ではなく、自分自身のために。
同じシャモニーへ戻っても、そこを走る理由は変わっています。
結果だけでは測れないもの
スポーツでは、結果が分かりやすく残ります。
優勝。
順位。
タイム。
完走。
DNF。
しかし、アスリートの成長をすべてそれだけで説明することはできません。
山で過ごした時間。
一人で積み重ねたトレーニング。
身体の状態を理解すること。
思い通りにならなかったレースから学ぶこと。
そして、なぜこのスポーツを続けたいのかを思い出すこと。
Toni McCannのシャモニーへの帰還は、単なる「再挑戦」ではありません。
結果を追うだけのレースから、自分自身が走りたいと思えるレースへ。
彼女が変えたのはCCCのコースではなく、そこを走る理由でした。