トレイルランニングや登山でよく使われる「累積標高」。100kmで累積標高約10,000mとなると、どれほど過酷なのでしょうか。山岳アスリートのフランソワ・デンヌ(François D'Haene)とフィリップ・ライター(Philipp Reiter)は、アルプスの山岳スキールート「Hoch Tyrol」を、通常約6日かけて進むところを1日で越える挑戦に臨みました。
距離は約100km。累積標高は約10,000m。
ルートには急斜面や露出感のある山岳地帯が続き、オーストリア最高峰のグロースグロックナー(Grossglockner/3,798m)も越えていきます。
しかし、この挑戦から見えてくるのは単なる「体力のすごさ」だけではありません。
長時間登り続けるための持久力、ペース配分、補給、睡眠、そして山岳地帯でのルート判断。
登山やトレランで累積標高の大きいルートに挑む人にも通じる、山を長く動き続けるためのヒントがあります。
累積標高10,000mとはどのくらい?
登山やトレイルランニングでルートの難易度を考えるとき、距離と並んで重要なのが累積標高です。
累積標高とは、ルートの中で登った標高差を合計したもの。
例えば100m登って50m下り、さらに200m登れば、累積標高は300mになります。
そのため「距離100km」といっても、ほぼ平坦な100kmと、累積標高10,000mを伴う100kmでは負荷がまったく違います。
累積標高10,000mは、単純な数字だけで考えれば富士山の標高差を何度も繰り返し登るような規模です。
しかもHoch Tyrolでは、その登りを標高の高いアルプスで、長い下りやテクニカルな地形を挟みながら繰り返します。
必要なのは最大スピードよりも、長時間にわたって登る力を維持する持久力です。
Hoch Tyrol|通常約6日かかる100kmの山岳ルート
Hoch Tyrolは、南チロルのKasernからスタートし、山小屋をつなぎながらアルプスを横断していく山岳スキールートです。
ルートは約100km、累積標高約10,000m。
途中には急な登りや露出感のあるセクションがあり、山岳技術も求められます。
そしてルートの後半には、オーストリア最高峰である標高3,798mのグロースグロックナーが待っています。
一般的には約6日間かけて山小屋から山小屋へと進むようなルートです。
フランソワとフィリップは、この壮大なアルプス横断を一度も長い休息を挟まず、ワンプッシュで進むことを選びました。

© Martina Valmassoi
100km・累積標高10,000mを1日で越える
フランソワ・デンヌとフィリップ・ライターは、ともに山岳地帯で長時間行動する経験を積んできたアスリートです。
それでも、100km・累積標高約10,000mを一度に越える挑戦は別次元でした。
登りでは心肺と脚力を消耗し、下りでは筋肉へ大きな衝撃が加わります。
さらに標高、気温、雪質、天候など、山では常に条件が変化します。
つまり、単に「登りが速い」だけでは最後まで進めません。
登りで使い切らず、下りで脚を壊さず、次の登りでも動き続けられるペースを維持する。
この「出力を抑えながら長く続ける力」が、大きな累積標高を攻略するうえで重要になります。
悪天候とホワイトアウトの中でのナビゲーション
スタート直後から、天候は二人に味方してくれませんでした。
視界の悪い状況の中、クーロワールを滑り降りる場面もありました。
雪山では、ホワイトアウトによって地形の凹凸や方向感覚がつかみにくくなることがあります。
元記事では、二人がGPSウォッチのナビゲーションを活用しながらルートを確認した様子が紹介されています。
現在のSuuntoウォッチでも、事前に作成したルートやオフラインマップを利用して、現在地や進行方向を確認できます。
ただし、GPSウォッチや地図は安全を保証するものではありません。
特に雪山や高山では、天候、雪崩リスク、地形、体力、撤退判断などを総合的に考える必要があります。
ナビゲーション機能は、その判断を支えるためのひとつのツールです。
▶︎ Suuntoの地図・ナビゲーション画面の見方|登山・トレイルのルート案内を解説
想定以上に必要だったエネルギー補給
長時間の山岳活動では、心肺能力や脚力と同じくらい重要になるのが補給です。
二人はHoch Tyrolを進む中で、想定していた以上に多くのエネルギーが必要になりました。
そこで途中の山小屋では、大きな皿いっぱいのパスタを注文してエネルギーを補給します。
これはウルトラトレイルや長時間登山にも共通するポイントです。
身体のエネルギーが不足すると、ペースが落ちるだけでなく、判断力や集中力にも影響します。
累積標高が増えるほど登りでの消費エネルギーも大きくなるため、「空腹になってから食べる」のではなく、動き続けるために計画的に補給することが重要です。
また、高強度で動き続けると食欲が落ちたり、胃腸が受け付けにくくなったりすることもあります。
レースや大きな山岳チャレンジの前には、トレーニング中から自分に合う補給方法を確認しておく必要があります。
30歩ごとに止まるほどの疲労
日が落ちる頃には、二人のエネルギーはほとんど残っていませんでした。
そして最後に待っていたのが、オーストリア最高峰グロースグロックナーへの登りです。
フィリップは後に、この最後の登りについて「これほど消耗したことはなかった」と振り返っています。
身体に歩き続けるよう言い聞かせても、30歩ほど進むたびに身体が止まってしまう。
原因として彼が挙げているのは、約10,000mに及ぶ登りの身体的疲労だけではありません。
事前準備によるストレスや、十分でなかった睡眠も重なっていました。
これは、持久系スポーツで忘れられがちなポイントです。
パフォーマンスは、その日の体力だけで決まるわけではありません。
睡眠や回復状態、精神的な疲労も、長時間の運動では大きく影響します。
登りの持久力を高めるために学べること
もちろん、100km・累積標高10,000mを1日で越える必要はありません。
しかし、この挑戦から登山やトレランの「登る力」について学べることがあります。
1. 登りは毎回全力で走らない
急な登りでは心拍数が上がりやすく、知らないうちに高強度になりがちです。
長時間動き続けるなら、序盤から全力で登るよりも、余裕を残して一定の強度を維持することが重要です。
2. ベースとなる持久力を育てる
登りを速くするには坂道トレーニングだけを繰り返せばいいわけではありません。
低〜中強度の持久系トレーニングによって、長時間効率よく動ける身体を作ることが土台になります。
▶︎ スキーモを速くする6つのトレーニング方法|登りの持久力と効率を高めるコツ
3. 筋力も「登り続ける力」の一部
長い登りでは脚だけでなく、体幹や上半身の安定性も重要です。
身体を安定させることで一歩ごとの動作を効率化し、長時間の登りで無駄なエネルギー消費を減らせます。
4. トレーニングだけでなく回復を見る
今回フィリップを苦しめた要因のひとつが睡眠不足でした。
練習量を増やすだけでなく、睡眠やHRV、トレーニング負荷などを継続的に見ながら、回復とのバランスを取ることも重要です。
▶︎ HRV(心拍変動)とは?正常値の見方と回復・トレーニングへの活かし方
累積標高の大きいルートほど事前計画が重要
距離が長く、累積標高が大きくなるほど、ルート計画の重要性も高まります。
確認したいのは距離だけではありません。
- 累積標高と登りの位置
- 標高の高い区間
- 補給できる場所
- 水を確保できる場所
- 天候が悪化した場合の撤退ルート
- 日没までにどこまで進めるか
こうした情報を事前に確認することで、「100km」という数字だけでは見えなかったルートの難しさがわかってきます。
Suuntoアプリでは、ルート作成時に距離や標高プロファイルを確認しながら計画できます。
GPXファイルのインポートやヒートマップを使ってルートを準備する方法はこちらで紹介しています。
▶︎ Suuntoアプリで登山・トレイルのルートを作る6つの方法|GPX・ヒートマップも解説
長時間の登山やトレイルランニングで、オフラインマップやルートナビゲーションを使いながら行動したい場合は、Suunto Vertical 2も選択肢のひとつです。
山で重要なのは、ウォッチに判断を任せることではありません。
地図、天候、自分の体力、残り時間を確認しながら、自分自身で判断し続けること。
ウォッチは、その判断に必要な情報を手元で確認するためのツールです。
まとめ|登る力は「速さ」だけではない
100km、累積標高約10,000m。
通常約6日かけて進むHoch Tyrolを、フランソワ・デンヌとフィリップ・ライターはワンプッシュで越えました。
しかし、この挑戦で印象的なのは、圧倒的なスピードそのものではありません。
悪天候の中でルートを確認し、必要なエネルギーを補給し、疲労と睡眠不足を抱えながら、それでも最後まで一歩ずつ進み続けたことです。
登りの強さとは、坂道を速く駆け上がる能力だけではありません。
無理のない強度を選ぶこと。
エネルギーを補給すること。
疲労を管理すること。
そして、必要なら引き返す判断ができること。
次に累積標高の大きな登山やトレイルランニングへ挑むときは、距離だけでなく「どれだけ登るのか」にも目を向けてみてください。
その数字を理解することが、より良いルート計画とペース配分の第一歩になります。
Lead images © Philipp Reiter / Photo © Martina Valmassoi