「いつかやってみたい」
そう思いながら、なかなか最初の一歩を踏み出せないことがあります。
しかし、世界最高峰の山々に挑み続けるネパール人登山家、テンジ・シェルパ(Tenji Sherpa)が大切にしているのは、アイデアを頭の中だけで終わらせないことです。
彼がその姿勢を学んだのは、世界的アルピニストのウーリー・ステック(Ueli Steck)との出会いでした。
「アイデアがあるなら、それを行動に移すのは自分自身だ。」
ネパールの小さな村で育った少年は、ポーターとして山で働き始め、やがて国際山岳ガイドとなり、酸素ボンベを使わずにエベレストへ登頂。そして今も、8000m峰で新たな挑戦を続けています。
今回はテンジの歩みを通して、夢や目標を「いつか」で終わらせず、行動に変えていくことについて考えます。
ローツェに残した「未完の挑戦」
テンジには、今も心に残っている山があります。
世界第4位の高峰、標高8,516mのローツェです。
2018年5月、テンジは友人であり、大きな影響を受けた登山家ウーリー・ステックを偲び、ある大胆な挑戦に向かいました。
それは、酸素ボンベを使わずにエベレストへ登頂し、そのままローツェへ縦走するというものです。
ウーリー自身も挑戦を思い描いていたルートでした。
テンジはエベレスト登頂を果たしましたが、ローツェへ向かう段階で天候が悪化。安全上の理由から、挑戦を途中で断念しました。
山では、強い意志があっても計画通りに進めないことがあります。
だからこそ、その挑戦は失敗ではなく、今も彼の中に残る「unfinished business(やり残したこと)」になっています。

Photo taken while filming Everest VR © Jon Griffith
エベレストの麓で育った少年
テンジは、ネパールのソルクンブ地方にあるグデル(Gudel)という小さな村で生まれ育ちました。
現在のように登山を仕事として意識していたわけではありません。
学校へ通うだけでも毎日長い距離を歩き、当時の暮らしではサンダルさえ貴重なものでした。
身近にいた兄や村の大人たちは、ヒマラヤでポーターやガイドとして働いていました。
テンジにとって「山で働く」ということは、世界的な冒険というより、生活のすぐそばにある現実的な仕事だったのです。
ポーターから山岳ガイドへ
2007年、テンジは大学へ通う費用を得るために、ポーターとして働き始めました。
その後、カトマンズへ移ります。
しかし都会で生活する中でも、彼は自分が本当にいたい場所は山だと感じていました。
そこで2012年から正式な登山トレーニングを開始。ハイシーズンにはポーターとして働きながら、技術と経験を身につけていきました。
そして2019年には、国際山岳ガイド資格を取得します。
最初から世界の8000m峰を目指していたわけではありません。
目の前にある仕事を続けながら、少しずつ次のステップへ進んでいった結果、世界最高峰の山々でガイドを務める登山家へと成長していきました。
人生を変えたウーリー・ステックとの出会い
テンジの人生に大きな影響を与えた人物が、スイスの登山家ウーリー・ステックです。
「Swiss Machine(スイス・マシーン)」の異名を持つウーリーは、難易度の高い山岳ルートを驚異的なスピードで登るスタイルで知られていました。
2人が出会ったのは2012年。
テンジがポーターとして働いていた頃のエベレスト・ベースキャンプでした。
その後、2人は一緒に山へ登るようになります。
テンジはウーリーから、高所登山の技術だけでなく、速く、軽く、できるだけシンプルな装備で山へ向かうアルパインスタイルについて多くを学びました。

Tenji with Ueli Steck on Jungfrau, Switzerland, 2015 © Tenji Sherpa
「アイデアを行動に移すのは自分」
テンジがウーリーから学んだことの中で、特に大きかった言葉があります。
「アイデアがあるなら、それを行動に移すのは自分自身だ。」
夢や目標を持つことは、それほど難しくありません。
「いつかこの山に登りたい」
「いつかこのルートに挑戦したい」
しかし、アイデアを実現するためには、トレーニングを始め、経験を積み、計画を立て、実際に現地へ向かわなければなりません。
テンジ自身も、ポーターとして山で働くところから、その一歩を積み重ねてきました。
大きな挑戦も、最初は小さな行動から始まります。
エベレスト無酸素登頂へ
2012年、テンジは酸素ボンベを使わずにエベレスト登頂を果たしました。
高所では空気中の酸素が少なくなり、身体への負担は大きくなります。
それでもテンジが選んだのは、ウーリーから影響を受けた軽量でシンプルな登山スタイルでした。
その後も、標高6,501mのチョラツェ北壁をウーリーとともに登攀。
テンジは、このルートを登った初のネパール人になりました。
さらにエベレストやマナスルをはじめ、多くのヒマラヤ高峰で経験を重ねています。

Tenji climbing Manaslu in winter 2020 © Tenji Sherpa
山が教えてくれる「変化への向き合い方」
テンジが長年山に登る中で学んだことがあります。
それは、状況はとても速く変わるということです。
山では、朝は穏やかだった天候が数時間後には大きく崩れることがあります。
ルートの状態が予想と違うこともあれば、身体のコンディションによって計画変更が必要になることもあります。
だからこそ、登山では「予定通りに進むこと」以上に、状況を見て判断し、必要なら引き返すことも重要です。
テンジがローツェへの縦走を途中で断念したのも、その判断のひとつでした。
夢を行動に移すことと、無理をして最後まで進むことは同じではありません。
挑戦すること。そして状況に応じて判断を変えること。
その両方が、山では必要になります。
挑戦を支える、ルート・高度・現在地の把握
ヒマラヤのような極限環境でなくても、登山では「今、自分がどこにいるか」「この先どれくらい登るのか」を把握することが大切です。
GPSウォッチでは、事前に作成したルートを表示しながら現在地を確認したり、標高や残りの登り・下りを確認したりできます。
Suuntoのクライムガイダンスでは、ルートの高度データをもとに登り・下りなどの区間を把握でき、ペース配分や休憩の判断に活用できます。
▶︎ 登山・トレイルでルートをナビゲーション|Suuntoクライムガイダンスの使い方
また、ウォッチの地図・ナビゲーション画面では、対応モデルで現在地、次の地点までの距離、ゴールまでの距離、標高などを確認できます。
▶︎ SUUNTOの地図・ナビゲーション画面の見方|登山・トレイルのルート案内を解説
山を探索するためのSuunto Vertical 2
山で長時間行動するなら、GPS精度、地図、バッテリー、そして操作性は重要なポイントです。
Suunto Vertical 2は、登山やトレイルランニングなど長時間のアウトドアアドベンチャーを想定したGPSスポーツウォッチです。
オフラインマップやルートナビゲーションに対応し、スマートフォンの電波が届きにくい場所でも、事前に準備した地図とルートを手元で確認できます。
山では、テクノロジーが判断そのものを代わりにしてくれるわけではありません。
しかし、現在地やルート、高度などの情報をすぐ確認できることは、自分自身で次の行動を判断するための材料になります。
▶︎ Suunto Vertical / Vertical 2が登山用GPSスマートウォッチに向いている理由
まとめ|最初の一歩は、自分で踏み出す
テンジ・シェルパのキャリアは、最初から大きな計画によって始まったものではありません。
大学へ通うためにポーターとして働き、山で経験を積み、トレーニングを続ける。
そこでウーリー・ステックと出会い、新しい登山スタイルを学び、自分自身の目標へ挑戦していきました。
そして彼の中に残ったのが、
「アイデアを行動に移すのは、自分自身だ」
という考え方です。
目標は8000m峰でなくても構いません。
これまで歩いたことのない山へ行く。
少し長いルートに挑戦する。
地図を開いて、次の週末のルートを考えてみる。
大きな冒険も、最初はそんな小さな行動から始まります。
次に思いついた「いつかやりたい」を、ひとつ行動に変えてみてはいかがでしょうか。
Lead image: Tenji Sherpa with Kilian Jornet and David Göttler in the Khumbu Icefall © Tenji Sherpa