乳酸閾値(LT)とは、ランニングの強度を上げたときに、血中乳酸濃度の上がり方が大きく変化するポイントです。乳酸閾値を知ると、自分に合ったペースや心拍ゾーンを設定しやすくなり、「きついペースをより長く維持する」ためのトレーニングに活用できます。
この記事では、乳酸閾値の意味、測定・推定方法、数値の見方、乳酸閾値を高めるトレーニングをランナー向けに解説します。

この記事のポイント
- 乳酸閾値は、血中乳酸の反応が大きく変化する運動強度の目安
- 自分の乳酸閾値を知ると、トレーニング強度を設定しやすくなる
- 血中乳酸測定が直接的な方法で、フィールドテストやスポーツウォッチでは推定できる
- 他人との比較より、同じ方法で測った閾値ペースの変化を追うことが大切
- 低強度ラン、閾値トレーニング、高強度インターバルを組み合わせて鍛える
乳酸閾値(LT)とは?

身体は運動中、常に乳酸をつくり、同時にエネルギー源として再利用しています。低い強度では乳酸の産生と利用・除去がおおむね釣り合うため、血中乳酸濃度は大きく変化しません。
ペースを上げると、乳酸の産生が身体の利用・除去能力を上回り、血中乳酸濃度が上昇し始めます。この反応が目立って変化する運動強度が「乳酸閾値」です。ただし、ある瞬間を境に身体の状態が完全に切り替わるのではなく、変化は段階的に起こります。
LT1・LT2・MLSSの違い
- LT1(第1乳酸閾値):低強度時の水準から、血中乳酸濃度が明確に上がり始めるポイント。一般的にLT1より低い運動は比較的楽に感じられます。
- LT2(第2乳酸閾値):血中乳酸濃度の上昇がさらに急になる、高い運動強度のポイント。一般に「閾値トレーニング」で基準にされるのはこちらです。
- MLSS(最大乳酸定常状態):一定強度の運動を続けたときに、血中乳酸濃度をほぼ安定させられる最も高い強度。LT2と近い概念ですが、測定方法が異なるため同じものではありません。
乳酸閾値を知るメリット
乳酸閾値を知る目的は、単に数値を高くすることではありません。現在の持久力を把握し、トレーニングの強度を自分に合わせるために役立ちます。
持久力を把握できる
同じ短い距離を同じ速さで走れる2人でも、そのペースを維持できる時間は異なります。乳酸閾値付近のペースが速いランナーほど、比較的高いスピードを長く維持できる傾向があります。
自分に合ったトレーニング強度を設定できる
最大心拍数が同じランナーでも、乳酸閾値に達する心拍数やペースは同じとは限りません。乳酸閾値心拍数(LTHR)、ペース、パワーを基準にすると、自分の身体の反応に合わせて強度を設定しやすくなります。心拍ゾーンの基本については、ランニングの心拍ゾーンとは?ゾーン1〜5の目安・計算方法・使い方も参考にしてください。
トレーニングの成果を確認できる
同じ方法・近い条件で定期的に測定し、閾値ペースが速くなっていれば、以前より速いペースを維持できるようになったと考えられます。乳酸閾値心拍数がほぼ変わらなくても、その心拍数で走れるペースが上がっていれば持久力の向上が期待できます。
乳酸閾値の測定・推定方法

乳酸閾値は、血中乳酸濃度を測る方法のほか、レース結果やフィールドテスト、スポーツウォッチの記録から推定する方法があります。それぞれ得られる情報と精度が異なるため、目的に合った方法を選びましょう。
1. 血中乳酸濃度を測定する
直接的な方法は、運動強度を段階的に上げながら血液を採取し、血中乳酸濃度を測るテストです。測定結果から乳酸カーブを作成し、乳酸濃度の変化と、そのときのペース・パワー・心拍数を確認します。
血中乳酸濃度そのものは測定できますが、どこを閾値とするかは乳酸カーブの解析方法によって変わります。専門施設や知識のある指導者のもとで行う方法です。
2. レース結果やフィールドテストから推定する
血中乳酸測定が難しい場合は、一定時間・距離を走るテストや、最近のレース結果から閾値ペースや閾値心拍数を推定できます。全力に近い運動を伴うテストは、十分に体調を整え、安全な場所で行ってください。
3. スポーツウォッチで推定する
対応するスポーツウォッチでは、トレーニング中の心拍数やペースなどのデータをもとに、乳酸閾値やVO₂maxを推定できます。採血を伴わず、日々の変化を継続して確認しやすい方法です。
ただし、スポーツウォッチによる数値は血中乳酸濃度を直接測ったものではありません。気温、体調、計測データの品質、運動時のパフォーマンスなどに影響されるため、単発の数値ではなく、同じ条件・方法での変化を追いましょう。Suuntoウォッチを使った測定については、VO₂max・閾値・FTPを確認してトレーニングに活かす方法で詳しく紹介しています。
乳酸閾値はどれくらいなら高い?
乳酸閾値に、すべてのランナーに共通する「理想の数値」はありません。体力レベルや測定方法によって結果が異なるため、他人との単純比較には向いていません。
ランナーが注目したいのは、乳酸閾値での心拍数や血中乳酸濃度そのものよりも、同じ方法・近い条件で測定したときの閾値ペースです。閾値心拍数が変わらなくても、その強度で維持できるペースが速くなれば、持久力が向上している可能性があります。
「4mmol/L」は全員共通の基準ではない
血中乳酸濃度4mmol/Lは、乳酸閾値を判定する基準のひとつとして使われてきました。しかし、乳酸の反応には大きな個人差があります。同じ身体的な変化が、より低い濃度で起こる人も、高い濃度で起こる人もいます。
そのため、4mmol/Lを一律の合格ラインとして考えるのではなく、自分の乳酸カーブやペースの変化を継続して確認することが大切です。
乳酸閾値を高めるトレーニング
乳酸閾値を高めるには、低強度の有酸素運動で土台をつくり、乳酸閾値付近のトレーニングと高強度インターバルを組み合わせます。強度の高い練習だけを増やすのではなく、回復も含めてバランスを取りましょう。
乳酸閾値についてよくある質問
乳酸閾値・無酸素性作業閾値・換気性作業閾値は同じですか?
完全に同じではありません。無酸素性作業閾値は、運動中の代謝が変化する境目を説明するために使われてきた概念です。乳酸閾値は血中乳酸の変化、換気性作業閾値は呼吸ガスの変化から判断します。LT2や第2換気性作業閾値(VT2)は無酸素性作業閾値の推定に使われますが、必ずしも同じ強度になるとは限りません。
乳酸閾値と乳酸閾値心拍数の違いは?
乳酸閾値は、血中乳酸の反応が変化する運動強度です。乳酸閾値心拍数(LTHR)は、その強度で運動しているときの心拍数を指します。LTHRはトレーニング強度の管理に役立ちますが、数値が高いほど持久力に優れているとは限りません。
VO₂maxと乳酸閾値は同じですか?どちらが重要ですか?
同じではありません。VO₂maxは、身体が取り込み利用できる酸素量の最大値を示します。乳酸閾値は、その能力のうちどれくらいを持続的な運動で使えるかに関係します。どちらも持久力を構成する重要な要素であり、競技距離、体力レベル、トレーニングの目的によって重要度が変わります。
「乳酸性作業閾値」と「乳酸閾値」は同じですか?
一般には、どちらも運動強度の上昇に伴って血中乳酸濃度が大きく変化する境目を表す言葉として使われています。この記事では、より簡潔で広く使われている「乳酸閾値」という表記に統一しています。
まとめ
乳酸閾値を知ると、「どれくらい速く走れるか」だけでなく、「その速さをどれくらい維持できるか」という持久力の変化を捉えやすくなります。重要なのは、他人より高い数値を目指すことではなく、同じ条件で測った閾値ペースが自分のトレーニングによってどう変化したかを確認することです。
SuuntoのスポーツウォッチとSuuntoアプリを活用すれば、心拍数、ペース、VO₂max、トレーニング負荷などとあわせて、乳酸閾値の変化を継続的に確認できます。低強度ラン、閾値トレーニング、高強度インターバル、回復をバランスよく組み合わせ、自分に合ったペースで持久力を高めていきましょう。