24時間走に挑戦したキリアン・ジョルネは、134.8kmを10時間20分で走ったところでレースを終えました。目標だった24時間には届きませんでした。しかし、この挑戦から彼が得たものは「失敗」という一言では片づけられないものでした。
長時間走では、ペース配分、補給、寒さ、疲労、そして身体から届くサインと向き合い続ける必要があります。
世界トップクラスの山岳アスリートであるキリアンにとっても、それは同じでした。
この記事では、ノルウェーで行われた24時間走チャレンジ「Phantasm24」を振り返りながら、限界へ挑戦すること、そして必要なときに止まることの意味を考えます。

400mトラックを24時間走り続ける挑戦
2020年11月27日、キリアン・ジョルネはノルウェー・Måndalenにある400mトラックで、24時間走「Phantasm24」をスタートしました。
目的はシンプルです。
24時間走り続け、自分がどこまで進めるのかを確かめること。
しかし、キリアンにとってこの挑戦は、単に距離の記録を狙うだけのものではありませんでした。
彼は以前から、異なる競技や環境に挑戦することで、自分の身体と持久力について理解を深めてきました。
山岳ランニングとは大きく異なる400mトラックでの24時間走も、その延長線上にありました。
同じ景色。
同じコーナー。
同じ400mを、何百周も繰り返す。
山のように地形が変化することもありません。
だからこそ、ペース、補給、身体の変化、そしてメンタルと向き合い続けることになります。
▶︎ 24時間走を走り切るには?キリアン・ジョルネに学ぶペース配分・補給・回復
気温-1℃、霜に覆われたトラック
スタート時のMåndalenの気温は、およそ-1℃。
青いトラックの周囲は白い霜に覆われ、走る選手たちの吐く息もはっきり見えるほどの寒さでした。
安全に走れる状態にするため、トラックは事前に除氷する必要がありました。

24時間走では、単に「24時間走れる体力」があればいいわけではありません。
気温の変化に合わせてウェアを調整する。
エネルギーを補給する。
水分を取る。
ペースを維持する。
身体の小さな違和感にも注意する。
長時間になるほど、一つひとつの小さな判断が積み重なっていきます。
10kmを4:16/km、42.4kmを3時間2分23秒で通過
キリアンは序盤から速いペースで走りました。
最初の10kmは平均4分16秒/km。
42.4km地点は3時間2分23秒で通過しています。

フルマラソンなら、ここでフィニッシュです。
しかし24時間走では、まだ序盤にすぎません。
50km、100kmと距離が伸び、時間が経過するほど、身体の状態も変化します。
ウルトラランニングでは、スタート直後に楽に感じたペースが、10時間後にも同じ負荷とは限りません。
長時間走では「今走れるペース」ではなく、「何時間後まで維持できるペースか」を考える必要があります。
24時間走の難しさは、ここにあります。
10時間20分、134.8kmで中止
キリアンは走り続けました。
脚にも大きな問題はなく、長時間レースで起こる通常のアップダウンを経験しながらも、本人の感覚としては比較的良い状態だったといいます。
しかし、10時間を超えたころ、状況が突然変わりました。
強い胸の痛み。
めまい。
そして急激な疲労感。

医療スタッフが状態を確認し、病院で診察を受けることが最善と判断。
キリアンは10時間20分、134.8kmの地点で挑戦を終了しました。
目標は24時間。
まだ半分にも達していません。
それでも、この状況で重要なのは「あと何時間走れたか」ではありません。
身体から明確な異常のサインが出たとき、挑戦よりも安全を優先することです。
「耐える苦しさ」と「止まるべきサイン」は違う
長距離ランニングでは、苦しい時間が必ず訪れます。
脚が重い。
呼吸が苦しい。
ペースを落としたい。
もうやめたいと感じる。
ウルトラランナーは、こうした苦しさと向き合いながら前へ進みます。
しかし、すべての苦しさを「耐えるべきもの」と考えるのは危険です。
胸の痛み、強いめまい、意識状態の変化など、通常とは異なる症状が現れた場合には、競技を続けることより身体を守ることが優先されます。
「限界を超える」という言葉はスポーツではよく使われます。
けれど、本当に長くスポーツを続けるためには、押し続けるべき場面と、止まるべき場面を区別することも必要です。
これは、メンタルの強さとは別の話です。
▶︎ 「Pain Cave」とは?コートニー・ドウォルターに学ぶ、限界で前に進むメンタル
「苦しいからやめる」のと、「身体から危険なサインが出ているからやめる」のは同じではありません。
自分の身体の変化を知ることも、持久系スポーツで必要なスキルのひとつです。
走っているのは、一人ではない
この挑戦には、キリアンのパートナーであるエミリー・フォシュベリと娘のMajも応援に訪れていました。

24時間走のような極端なチャレンジは、走っている本人だけで成立するものではありません。
補給を準備する人。
トラックを整備する人。
身体の状態を確認する医療スタッフ。
大会を運営する人。
そして応援する家族やコミュニティ。
長い挑戦ほど、周囲のサポートの存在も大きくなります。
同じトラックで生まれたウルトラランナーたちの記録
この日、Måndalenのトラックを走っていたのはキリアンだけではありません。
ノルウェーのウルトラランナーたちも24時間走に挑戦し、素晴らしいパフォーマンスを残しました。

- Harald Bjerke:232.28km
- Jo Inge Norum:219.45km
- Simen Holvik:208.13km
- Didrik Hermansen:174.8km
Sebastian Conrad Håkanssonはキリアンとともに速いペースで走り、100km、12時間走、100マイルのノルウェー記録を更新してから競技を終了しました。
24時間で200km以上走るということは、単純計算でも平均時速8km以上を、休憩や補給を含めて丸一日維持することになります。
こうした数字を見ると、24時間走が単なる「長いジョギング」ではないことが分かります。

目標を達成できなくても、挑戦から得られるもの
キリアンは、途中で挑戦を終えたことについて当然ながら悔しさを感じていました。
それでも、24時間走に挑戦した経験そのものには価値があったと振り返っています。
特に得られたのは、トレーニングと栄養についての新しい学びでした。
これはランニングに限らず、多くのスポーツに共通することかもしれません。
計画したトレーニングを完璧にこなせなかった。
目標タイムに届かなかった。
レースを途中でやめた。
そうした結果だけを見ると、「失敗」に感じることがあります。
しかし、その過程から、
- どのペースなら維持できたか
- どのタイミングで疲労が大きくなったか
- 補給は十分だったか
- 身体にどんな変化が起こったか
- 次回は何を変えるべきか
を知ることができれば、その挑戦は次につながります。
挑戦の価値は、ゴールしたかどうかだけで決まるわけではありません。
長時間走ではデータをどう活かす?
ウルトラランニングや長時間トレーニングでは、自分の感覚とあわせてデータを振り返ることも役立ちます。
ペース、心拍数、ラップ、走行時間、トレーニング負荷。
こうしたデータを記録しておけば、終了後に「どこからペースが変化したのか」「心拍はどう推移したのか」「後半にどれくらい負荷が増えたのか」を確認できます。
Suunto Race 2は、ランニングやレース、長時間の持久系トレーニングを記録し、Suuntoアプリでトレーニングデータを振り返ることができます。
ただし、ウォッチの数字だけで身体の状態を判断することはできません。
データは、自分の感覚や身体からのサインを理解するための材料のひとつ。
特に長時間のチャレンジでは、数字と身体の両方を見ることが重要です。
まとめ|限界を知ることも、トレーニングの一部
キリアン・ジョルネの目標は、24時間走り続けることでした。
結果は10時間20分、134.8km。
目標には届きませんでした。
しかし、自分の限界を試し、これまでとは異なる競技へ挑戦し、トレーニングや栄養について新しいことを学ぶという目的は達成しました。
そして、身体から異常のサインが出たときには走ることをやめました。
前へ進むことだけが、強さではありません。
挑戦する。
失敗する。
学ぶ。
必要なら止まる。
そして、その経験を次の挑戦へつなげる。
持久力を高めるということは、単に長く耐えられる身体を作ることではなく、自分自身をより深く理解していくことでもあります。
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