24時間、走り続ける。
想像するだけでも過酷な挑戦ですが、24時間走では単純な「速さ」だけでは結果は決まりません。
必要なのは、最初から飛ばしすぎないペース配分、長時間動き続けるための補給、繰り返しの動作に耐える身体、そして疲労からの回復です。
2020年、世界的な山岳アスリートキリアン・ジョルネ(Kilian Jornet)は、自分の得意分野とは大きく異なる挑戦を選びました。
舞台は険しい山でも、標高の高いピークでもありません。
一周400mの平坦なトラックを、24時間走り続ける。
UTMBやHardrock 100など世界最高峰の山岳レースで実績を残してきたキリアンにとっても、それは未知の世界でした。
なぜ山のトップアスリートが、あえて平坦なトラックへ向かったのでしょうか。
24時間走とは?
24時間走は、その名の通り24時間の制限時間内にどれだけ長い距離を走れるかを競うウルトラランニング競技です。
大会によってコースは異なりますが、トラックや短い周回コースを繰り返し走る形式もあります。
100m走やマラソンとは違い、24時間という長い時間の中では、一時的なスピードよりも「どのくらいのペースなら長時間維持できるか」が重要になります。
走力だけでなく、補給、休息、メンタル、筋肉へのダメージ、気温変化など、多くの要素を管理する必要があります。
つまり24時間走は、単純に「長い距離を走る競技」というより、身体とエネルギーを24時間かけてどうマネジメントするかを競うスポーツとも言えます。

なぜ山岳ランナーが400mトラックへ?
キリアン・ジョルネといえば、トレイルランニング、ウルトラ、バーティカル、スキーモなど、山岳スポーツを代表するアスリートです。
エベレストにも短期間で2度登頂するなど、彼のキャリアの多くは標高差の大きい山岳環境で築かれてきました。
そんなキリアンが選んだのが、ほぼ完全に平坦な400mトラックでした。
本人がこの挑戦で重視していたのは、記録だけではありません。
違うことに挑戦し、自分に何ができるのかを知りたい。
平坦な場所で走ることは、キリアンにとって補給やペース配分を学ぶためのテストでもありました。
そこで得た経験を、将来の山岳プロジェクトにも応用したいと考えていたのです。
自分の得意分野だけを繰り返すのではなく、異なる環境へ出ることで新しい弱点や可能性を発見する。
トップアスリートならではのトレーニングへの考え方が表れています。
24時間走で重要なペース配分
長時間レースでもっとも難しいもののひとつが、序盤のペースを抑えることです。
スタート直後は身体もフレッシュで、予定より速く走れてしまいます。
しかし24時間走では、その「少し速い」が何時間も積み重なった結果、後半の大きな失速につながる可能性があります。
キリアンが参考にしていたのが、ギリシャの伝説的ウルトラランナー、イアニス・クーロス(Yiannis Kouros)のスプリットタイムでした。
当時の記事では、クーロスが24時間で303.506kmを走った記録が基準として紹介されています。
キリアンは、1時間ごと、1kmごと、そして1周ごとに必要なペースを把握し、序盤から長時間のペース変化を想定していました。
重要なのは、ずっと同じスピードで走ることではありません。
疲労が増えることを前提に、24時間全体をひとつのレースとして設計することです。
これは24時間走だけでなく、ウルトラマラソンやロングトレイルにも通じます。
長時間走では「食べ続ける」ことも競技の一部
24時間も身体を動かし続ければ、体内に蓄えられているエネルギーだけでは足りません。
そのため長時間レースでは、走ることと同じくらい補給を続けられるかが重要になります。
元記事でキリアンも、長時間走で重要なのは「筋肉に問題を起こさず、大きく調子を落とすことなく食べ続けられること」だと話しています。
長時間運動では、ペースが適切でも補給がうまくいかなければ、後半にエネルギー不足が起こります。
反対に、一度に大量に摂ればいいわけでもありません。
自分が走りながら摂取しやすいものや、どのタイミングで補給するのかを、レース前のトレーニングで試しておくことが重要です。
補給も本番だけで突然うまくできるものではなく、トレーニングする要素のひとつです。
山とロードでは走り方が違う
世界トップクラスの山岳ランナーであるキリアンでも、フラットなロードへの適応には特別なトレーニングが必要でした。
彼自身、山を走るときと平坦な場所を走るときではフォームが大きく異なると説明しています。
トレイルでは岩や木の根、斜面など地形が常に変化します。
足を置く位置も一歩ごとに違い、障害物を越えるために身体を持ち上げる動作も多くなります。
一方、400mトラックでは同じような動作を何千回、何万回と繰り返します。
この「同じ動きを繰り返す負荷」が、山とは違う筋肉へのストレスになります。
そのためキリアンは、トラックやロードで週3日のスピードトレーニングを取り入れ、平地での動きに身体を適応させていきました。

強くなるために、休む判断も必要
しかし、準備は順調だったわけではありません。
24時間走への挑戦前、キリアンは筋肉の怪我に何度か悩まされていました。
良いトレーニングができても、その後に怪我をして休む。
再びトレーニングを積み上げて、また身体に問題が出る。
そんな期間が続いていたと振り返っています。
最終調整で彼が選んだのは、無理に練習量を増やすことではありませんでした。
一週間しっかりトレーニングし、身体の反応を確認したうえで、筋肉を休ませて回復させる。
トレーニングでは、負荷をかけることと同じくらい、負荷から回復する時間も重要です。
特に距離や時間を増やすウルトラランニングでは、「もっと走れば強くなる」と考えて負荷を急激に増やすと、疲労が回復を上回ってしまうことがあります。
トレーニング量と疲労のバランスについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶︎ トレーニング負荷とは?フィットネス・疲労・フォームで見る負荷管理の基本
回復状態をHRV・睡眠・負荷・感覚から確認する方法はこちら。
感覚とデータを組み合わせてペースを管理する
キリアンは24時間走への挑戦で、Suuntoウォッチを使ってスプリットタイムと進行状況を確認していました。
長時間レースでは、「まだ余裕がある」という感覚だけで走ると、序盤に想定以上のペースになっていることがあります。
そこで役立つのが、
- 現在のペース
- ラップタイム
- 心拍数
- 運動時間
- トレーニング強度
などのデータです。
もちろん、ウォッチに表示された数字だけでレースを決めるわけではありません。
自分の感覚と客観的なデータを組み合わせることで、「今は速すぎないか」「この強度を維持できそうか」を判断しやすくなります。
Suuntoでは、心拍ゾーンだけでなく、対応する心拍ベルトとZoneSenseを使って運動中の強度を確認する方法もあります。
また、日々のトレーニング負荷や疲労、フィットネスの積み上がりはSuuntoアプリから振り返ることができます。
▶︎ ランニングのトレーニング負荷をSuuntoで管理する方法
長時間レースを支えるSuunto Race 2
キリアンがこの挑戦を行った当時に使用していたのはSuunto 9でした。
現在、レースやトレーニングのためのモデルとしてラインアップされているのがSuunto Race 2です。
Suunto Race 2は、115種類以上のスポーツモード、高度なトレーニング機能、オフラインマップやナビゲーション機能を搭載しています。
GPSを使用するトレーニングモードでも最大55時間のバッテリー駆動に対応しているため、ウルトラランニングや長時間のトレイルレースなど、長時間記録を続けたい場面でも活用できます。
レース当日の記録だけでなく、普段のトレーニング負荷や回復状態を継続して振り返れることも、長い距離へ挑戦するうえで役立ちます。
まとめ|限界に挑むほど「抑える力」が重要になる
世界最高峰の山岳ランナーであるキリアン・ジョルネが24時間走への挑戦から学ぼうとしていたのは、単純なスピードではありませんでした。
ペースを抑える。
エネルギーを補給する。
身体の変化を観察する。
必要なら休む。
長時間の耐久競技では、頑張れるだけ頑張るよりも、24時間後まで動き続けるために自分自身をコントロールする力が求められます。
これは24時間走だけの話ではありません。
初めてのウルトラマラソン、長距離トレイル、フルマラソンなど、自分にとって「長い」と感じる距離へ挑戦するときにも同じ考え方が役立ちます。
次の長距離レースでは、速く走ることだけでなく、最後まで走るためにどこで抑えるかも考えてみてはいかがでしょうか。
All images: © Vegard Breie