走る。登る。自転車を漕ぐ。雪山を滑る。
ひとつのスポーツだけにとらわれず、自分の力でフィールドをつなぎながら冒険を楽しむ。そんなスタイルを実践しているのが、アメリカのウルトラランナー、SUUNTOアンバサダーのアントン・クルピチカ(Anton Krupicka)です。トレイルランニングで使うGPSウォッチの機能については、トレラン向けGPSウォッチの選び方でも詳しく解説しています。
かつてはウルトラランニングを中心に活動していた彼ですが、2011年の怪我をきっかけに、クライミングやサイクリング、スキーへと活動の幅を広げていきました。
現在の彼にとって大切なのは、単に速く走ることだけではありません。自宅から自転車で山へ向かい、そこから自分の足で登る。季節によってはスキーで滑り、再び自転車で帰る。移動そのものを含めて、ひとつの大きな冒険として楽しんでいます。
今回は、アントン・クルピチカが大切にしている「Human Powered Adventure(人力でつなぐ冒険)」という考え方と、マルチスポーツだからこそ広がるアウトドアの楽しみ方を紹介します。
走るだけではない。スポーツを組み合わせてひとつの冒険へ
アントンが好むのは、ひとつのアクティビティだけで完結するアウトドアではありません。
例えば、自宅から自転車で近くの岩場へ向かい、クライミングを楽しんでから再び自転車で帰る。あるいは、自転車で複数の山をつなぎ、それぞれのピークを自分の足で登る。冬には、自宅から自転車で山へ向かい、登って、スキーで滑ることもあります。
そこに共通しているのは、できる限りモーターに頼らず、自分自身の力で移動することです。
車で目的地まで移動すれば、山でのアクティビティだけを効率よく楽しむことができます。一方、人力で移動するスタイルでは、自宅を出た瞬間から冒険が始まります。
どんなルートを選ぶのか。何を持っていくのか。どこまで自転車を使い、どこから自分の足で進むのか。装備をできるだけシンプルにしながら、ひとつの行程として成立させていく。
アントンにとっては、こうしたルートや装備を考えるプロセスそのものも冒険の一部です。
2011年の怪我が広げた、アウトドアの世界
アントンは幼い頃からランニングに親しんできました。11歳でランナーとして走り始め、その約1年半後には初めてのマラソンを経験。その後、より長い距離へ挑戦するようになり、ウルトラマラソンの世界へと進んでいきます。
自分の限界に挑戦し続けることは、彼にとって大きなモチベーションになりました。
しかし2011年、ランニング中に脚を骨折。競技生活を一時中断せざるを得なくなります。
ランナーにとって、走れない期間は大きな挫折にもなり得ます。しかしアントンにとって、この怪我は新しい世界へ踏み出すきっかけにもなりました。
それまで十分に取り組む機会のなかったクライミング、サイクリング、スキーに挑戦するようになったのです。
ランニングとは異なる身体の使い方、異なるフィールド、異なる技術。それぞれのスポーツに夢中になるうちに、ランニング以外のアクティビティも、彼にとって欠かせないものになっていきました。
ひとつの競技を極めるだけではなく、季節やフィールドに応じてスポーツを組み合わせる。それが、現在のアントンのアウトドアスタイルにつながっています。
玄関を出た瞬間から始まる「Human Powered Adventure」
アントンのスタイルを象徴する言葉が、Human Powered Adventureです。
日本語にするなら、「人力でつなぐ冒険」と表現するとイメージしやすいでしょう。
目的地まで車で移動してからアクティビティを始めるのではなく、自宅から自転車や自分の足でフィールドへ向かう。山に着いたら登り、必要に応じて走り、冬ならスキーで滑る。そして、また自分の力で帰ってくる。
スタート地点とゴール地点を自宅の玄関にすることで、日常とアウトドアの境界がなくなります。
もちろん、すべてのアウトドアで車を使わないことが正解というわけではありません。場所や距離、天候、安全性によって適切な移動手段は変わります。
それでも、「いつもの移動をアクティビティの一部にできないか」と考えてみると、身近な場所にも新しい冒険が生まれるかもしれません。
例えば、自宅から自転車でトレイルの入り口へ行って走る。駅から登山口まで歩いて山へ入る。ランニングとハイキングを組み合わせて、自分だけのルートをつくる。Suuntoでルートを作成・準備する方法はこちらで詳しく紹介しています。
遠くへ行くことだけが冒険ではない。身近なフィールドを自分の力でつないでいくことも、アウトドアを楽しむひとつの方法です。
速く進むことは、記録だけが目的ではない
マルチスポーツの冒険を楽しむようになっても、アントンのレースに対する情熱がなくなったわけではありません。
彼が競技に価値を感じる理由は、単に順位を競うためだけではありません。
レースという環境では、普段のトレーニングでは到達しにくいほど自分を追い込み、限界に近い力を引き出すことができます。うまくいけば大きな達成感を得られ、思いどおりにいかなければ、そこから学ぶことができます。
つまりアントンにとって「速く進む」という行為は、記録そのものよりも、自分がどこまでできるのかを知るための方法なのです。
成功する可能性だけでなく、失敗する可能性もある。その不確実性があるからこそ、新しいことを学び、自分自身を成長させることができると考えています。
これはレースだけでなく、山での冒険にも共通しています。
少し難しいルートに挑戦する。これまでより長い距離を進んでみる。ランニングにサイクリングを組み合わせてみる。
自分にとって適度なチャレンジを加えることで、いつものアウトドアでも違った景色が見えてきます。
1995年から続けるトレーニングログ
自由なスタイルでアウトドアを楽しむ一方、アントンは自分の活動を丁寧に記録しています。
トレイルランニング、サイクリング、登山、スキー、バイクパッキングなど、アクティビティの種類にかかわらずトレーニングログを残し続け、その習慣は1995年から続いています。
感覚だけに頼るのではなく、距離や標高差、ルート、時間などを記録することで、自分がどのように動いたのかを振り返ることができます。
アントンは2015年からSuuntoのウォッチを使用し、日々のトレーニングやアウトドアで活用してきました。
ランニングだけでなく、サイクリングや登山、スキーなど複数のスポーツに取り組む場合、活動をひとつの場所に記録しておくことは、自分のアウトドアライフ全体を振り返るうえでも役立ちます。Suuntoでは幅広いアクティビティに対応しており、Suuntoで記録できるスポーツの種類も紹介しています。
「今日は何キロ走ったか」だけではなく、どの山へ行き、どれだけ登り、どんなルートを進んだのか。
数字とルートの両方を残しておけば、その日の冒険そのものがひとつの記録になります。
マルチスポーツなら、アウトドアはもっと自由になる
「自分はランナーだから走る」「登山が趣味だから山を歩く」。もちろん、ひとつのスポーツを深く楽しむことには大きな魅力があります。
一方で、アントンのようにスポーツ同士の境界を少し取り払ってみると、アウトドアの楽しみ方はさらに広がります。
走ることに自転車を組み合わせる。登山にランニングを取り入れる。冬になったらスキーに切り替える。
季節や体調、その日の目的によって自由に組み合わせれば、ひとつのスポーツができない時期でも、別の方法でフィールドとのつながりを持ち続けることができます。
実際、アントン自身も怪我で走れなくなったことをきっかけに、新しいスポーツと出会いました。
できなくなったことではなく、今できることに目を向ける。その先に、自分でも想像していなかった新しいアウトドアの楽しみ方が見つかることがあります。
いつもの玄関から、自分だけの冒険へ
アントン・クルピチカのアウトドアスタイルから見えてくるのは、「冒険の大きさは距離だけでは決まらない」ということです。
遠くの山へ遠征しなくても、レースに出なくても、自分の力でルートをつなぎ、少し新しいことに挑戦すれば、いつものフィールドを違った角度から楽しむことができます。
自転車でトレイルへ向かう。走ったことのないルートをつないでみる。登山とランニングを組み合わせる。
そして、その日の距離や標高、ルートを記録しておく。登山やトレイルでルートを確認しながら進みたい場合は、Suuntoの地図・ナビゲーション画面の見方も参考になります。
玄関を出たところから、次の冒険は始まっています。
Photo: Joey Schusler / Suunto