MTBバイクパッキングと聞くと、荷物を積んだマウンテンバイクでトレイルを走り続ける旅を想像するかもしれません。しかし、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の山奥へ向かった5人の旅では、4日目までに自転車へ乗れた時間はわずか約10%。残りの90%は、MTBを押すか、担いで進むことになりました。
岩場、氷河、藪、雨、そして地図上では分からなかった地形。
約200kmを8日間かけて進むはずだったこの旅は、単なるMTBライドというより、バイクパッキング、登山、ハイク、フリーライドを組み合わせた山岳遠征と呼ぶ方が近いものになっていきます。
計画通りに進めないとき、どこまで前へ進み、どこでルートを変えるのか。
カナダの秘境で繰り広げられた、少し常識外れなMTBアドベンチャーを紹介します。
これはMTBの旅なのか、それとも山岳遠征なのか
Kevin Landry、JF Newton、Margus Riga、Kenny Smith、Peter Wojnarの5人が向かったのは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州に広がるチルコティン山脈。
目的は、まだ知られていないフリーライドラインを求めて、MTBとともに山深くへ入ることでした。
しかし、彼らが選んだ場所は「MTBで走れるトレイルをつなぐ旅」と呼ぶには、あまりにも過酷でした。
歩くだけでも難しい地形を、自転車を持って越えていく。
彼ら自身も、この旅を単なる“アドベンチャー”より、“エクスペディション=遠征”と呼ぶ方がふさわしいと感じるほどでした。

約200km・8日間。Niut Valleyへ
舞台となったのは、ブリティッシュコロンビア州北部のNiut Valley。
コースト山脈とチルコティン高原がぶつかるこの地域には、整備されたトレイルネットワークがほとんどありません。
経験豊富なハイカーですらめったに入らない場所を、彼らはMTBを携えて約200km、8日間かけて進む計画を立てました。
通常のバイクパッキングなら、道の状態や水場、距離、累積標高などを確認しながらルートを組み立てます。
しかし、地図の上で線を引けても、その線を現実に通過できるとは限りません。
特に人の少ない山岳地帯では、衛星画像や地形図から想像した以上に、岩、藪、斜面、雪、氷河などが進行を難しくすることがあります。
▶︎ バイクパッキング初心者ガイド|装備・ルート・荷物を準備する9つのポイント
乗車10%、ハイク90%
遠征4日目。
彼らが記録した数字は、「Biking 10:Hiking 90」。
ここまで自転車に乗れたのは全体の10%にも満たず、残りはMTBを押すか、担いで進んでいました。
目の前には、切り立った花崗岩、崩れやすいガレ場、そして古い氷河。
自転車のための道などありません。

それでも、自転車を持ってきたことに意味がないわけではありません。
この旅の目的は、「最初から最後までペダルをこぐこと」ではなく、人の少ない山岳地帯を越え、その先にある走れる斜面を探すことだったからです。
走れる区間が少ないからこそ、最高の一本にたどり着いたときの価値も大きくなります。
「進む」より重要だったルート変更の判断
旅の途中、彼らの前に現れたのが、複雑な地形が入り組んだ谷でした。
それまでにも厳しいルートを越えてきたメンバーでしたが、このとき初めて、予定していたルートそのものを変更することを真剣に考えます。
地形の難しさだけではありません。
気圧は徐々に低下し、Suunto 9のストームアラームも悪天候の接近を示していました。

もし雪が20cm積もった状態で複雑な谷底へ入れば、脱出そのものが難しくなる可能性があります。
そこで彼らは、当初計画したルートをそのまま進むことをやめました。
アウトドアでは「計画通り進むこと」より、「状況が変わったときに計画を変えられること」の方が重要になる場面があります。
ルート、天候、時間、疲労、装備。
複数の情報を合わせて判断し、必要なら引き返す、迂回する、目的地を変更する。
それも山でのナビゲーションの一部です。
フリーライド・バイクパッキングという旅のスタイル
彼らは2016〜2017年ごろから、この独特なスタイルの遠征を続けてきました。
仲間内では「フリーライド・バイクパッキング」と呼ばれるスタイルです。
一般的なバイクパッキングとは少し違います。
大きな山でのMTBフリーライド、スキーツーリング、ロングトレイルのハイク、バイクパッキング、登山。
それらを混ぜ合わせ、山の稜線やシュートをつなぎながら、できるだけ走れる場所を探していきます。

谷底を避けるのにも理由があります。
標高の低い場所では藪が濃くなり、自転車を押すことすら難しくなるからです。
そのため、ときには遠回りに見える稜線の方が、結果的には進みやすいこともあります。
地図上の最短距離と、現地で最も進みやすいルートは、必ずしも同じではありません。
氷河と岩場を越える“近道”
予定していた谷を避けるため、彼らが選んだのは峠を越えて元のルートへ戻る迂回路でした。
地図上では“近道”に見えます。
しかし実際には、氷河、その下に続く不安定なガレ場、さらに急なスクランブリングが待っていました。

片手で岩をつかみ、もう片方でバックパックに載せたMTBを支える。
そんな場所を登り切った先では、横殴りの雨と冷たい風が待っていました。

ルートを変更したからといって、楽になるとは限りません。
それでも、悪化する天候の中でより危険な谷へ入るより、状況を把握したうえで別の選択肢を取ることが重要でした。
その先で待っていた最高のライド
寒さに震えながら稜線へ到達した時点では、この旅が成功するのか、彼ら自身にもまだ分かりませんでした。
ところが、その先に待っていたのは、谷へ向かって延びる素晴らしい下降ルートでした。
周囲にはMTBで走りたくなるようなシュートがいくつも並んでいます。
メンバーはそこにベースキャンプを設け、2日間かけて一本ずつラインを走りました。
天候も回復し、路面の状態も良好。
キャンプの近くの湖で泳ぎ、夜には焚き火を囲む時間もありました。

もちろん、これで簡単に帰れるわけではありません。
最後に残っていた“穏やかな15kmのトレイル”は、実際には約25kmに及ぶ藪だらけの道でした。
藪があまりにも密集していたため、MTBのペダルを外さなければ前へ進めない場所すらあったといいます。
最後まで、計画通りにはいかない旅でした。
山岳アドベンチャーではナビゲーションも装備のひとつ
人の少ない山岳地帯では、「現在地が分かる」だけでは十分ではありません。
予定していたルートを確認しながら、地形や天候に応じて次の選択肢を考える必要があります。
Suuntoアプリでは、事前にルートを作成したり、GPXルートを取り込んだりできます。
作成したルートを対応するSuuntoウォッチへ同期しておけば、スマートフォンの通信が届きにくい環境でも、ウォッチ上でルートやオフラインマップを確認できます。
▶︎ Suuntoアプリで登山・トレイルのルートを作る6つの方法|GPX・ヒートマップも解説
長時間の登山、バイクパッキング、トレイルランニングなど、山でのアドベンチャーを重視するなら、Suunto Vertical 2はルートナビゲーション、オフラインマップ、高度・気圧情報などをひとつのウォッチで確認できる選択肢です。
もちろん、ウォッチが安全を保証してくれるわけではありません。
地図、天候、現在地、自分たちの体力と時間を確認しながら、判断するための情報を増やす。
それが山岳アドベンチャーでナビゲーションツールを持つ意味です。
まとめ|予定通りに進まないからこそ、冒険になる
約200km、8日間。
MTBを持って山へ入ったにもかかわらず、旅の大部分は自転車を押したり担いだりする時間になりました。
予定したルートを変更し、氷河や岩場を越え、ようやく最高のフリーライドラインへたどり着く。
効率だけを考えれば、もっと簡単な場所でMTBを楽しむこともできたはずです。
それでも彼らがこうした遠征を続けるのは、走ることだけでは得られない体験がそこにあるからでしょう。
ルートを考え、自然の変化を読み、ときには予定を捨てながら、自分たちの力で進む。
バイクパッキングの魅力は、目的地へ最短距離で着くことだけではありません。
予定していた線と現実の山との間で、どんな選択をするか。
その過程そのものが、旅になります。
All images © Margus Riga