バックカントリースキーを安全に楽しむには、スキーの技術や装備だけでは十分ではありません。雪崩への備え、ビーコンの操作、天候や積雪の確認、自分のレベルに合ったルート選び、同行者との判断、そして疲労したときに引き返せる余力まで含めて準備することが重要です。
ゲレンデの外では、整備されたコースやパトロールのサポートを前提にはできません。
だからこそ、「良い雪を滑ること」だけではなく、安全に山へ入り、安全に帰ってくるための判断力が必要になります。
山岳ガイド、アルピニスト、フォトグラファーとして活動するMark Smileyは、バックカントリーでは装備を持つこと以上に、「使えること」「学び続けること」「その日の状況に合わせて判断すること」が重要だと話します。
この記事では、Markのアドバイスをもとに、バックカントリースキーやスキーツーリングを楽しむために確認しておきたい14のポイントを紹介します。

1. 必要な装備を準備する
バックカントリーへ入る前に、まず必要なのが適切な装備です。
行動する場所や条件によって必要なものは異なりますが、雪崩地形へ入る場合には、一般的に雪崩ビーコン、プローブ、ショベルなどの装備が重要になります。
さらに、
- 適切なウェアとレイヤリング
- 予備の防寒着
- 食料と水分
- 地図やナビゲーション手段
- ファーストエイド用品
- 行動時間や環境に応じた非常用品
なども、その日の山行に合わせて考えます。
ただし、装備リストを揃えること自体がゴールではありません。
重要なのは、その装備を必要な状況で正しく使えることです。
2. 装備を「持つ」だけでなく使えるようにする
Markが特に強調するのが、装備の使い方を理解しておくことです。
ビーコンをバックパックへ入れているだけでは、緊急時の助けにはなりません。
自分の機器を操作できるか。
捜索モードへすぐ切り替えられるか。
プローブやショベルを使った一連の捜索・救助手順を理解しているか。
シーズン前には操作方法を確認し、必要に応じて専門的な講習を受けるなど、知識と技術をアップデートしておきましょう。
緊急時に初めて説明書を読むことにならないよう、普段から練習しておくことが大切です。
3. 雪崩リスクを軽視しない
バックカントリーでは、雪崩は現実的なリスクです。
「今日は大丈夫そう」「前にもここを滑ったから大丈夫」といった感覚だけで判断することはできません。
積雪状態は、降雪、風、気温、斜面方位などさまざまな条件によって変化します。
Markが伝えているのはシンプルです。
バックカントリーを軽い気持ちで考えないこと。
どれだけ経験を積んでも、リスクがゼロになるわけではありません。
だからこそ、現地の雪崩情報や気象情報を確認し、必要な教育を受け、その日の条件に応じて判断します。

4. ビーコン捜索を繰り返し練習する
雪崩ビーコンの使い方は、一度覚えれば終わりではありません。
Markは、シーズン前にパートナーと繰り返し捜索訓練をすることをすすめています。
練習では、ビーコンを雪の中へ隠し、
- 信号を捉える
- 埋没位置へ近づく
- プローブで位置を特定する
- ショベルで掘り出す
という一連の流れを確認します。
練習時とは違い、実際の緊急時には強いストレスがかかります。
考えなくても身体が動くくらい繰り返しておくことが、重要な準備になります。
5. ゲレンデスキーとは別のスポーツだと考える
バックカントリースキーは、リフトで何度も滑るゲレンデスキーとは体験が大きく異なります。
滑るためには、まず自分の力で登らなければなりません。
Markはその比率を、冗談を交えながら「75%が汗、25%がインスピレーション」と表現しています。
何時間も登って、滑る時間はわずか数十分ということもあります。
それを前提にルートや行動時間を計画し、自分の体力を過大評価しないことが大切です。
6. 自分の技術と経験に合うルートを選ぶ
素晴らしい景色やパウダーの写真を見ると、同じ場所へ行きたくなるかもしれません。
しかし、そのルートが自分に適しているとは限りません。
スキー技術。
雪崩に関する知識。
ナビゲーション能力。
体力。
これまでのバックカントリー経験。
同行者の経験。
こうした要素を考慮し、自分たちが対応できる範囲で目的地を選ぶことが重要です。
初心者なら、よりリスクの低い地形から経験を積み、必要に応じて専門知識を持つガイドや講習を活用しましょう。
7. 出発前にルート・天候・積雪を調べる
バックカントリーの判断は、山へ着いてから始まるわけではありません。
出発前から始まっています。
Markは、興味のあるエリアへ向かう前に徹底して調べるようすすめています。
- 地形図を確認する
- 予定ルートと代替ルートを考える
- 天気予報を確認する
- 最新の積雪・雪崩情報を確認する
- 避けたい斜面や地形を把握する
- 引き返すポイントを考える
一つの情報だけで「安全」と判断できる万能な方法はありません。
複数の情報を集め、現地で得られる情報と照らし合わせながら判断することが必要です。
Suuntoアプリでは事前にルートを作成したり、GPXルートを取り込んだりできます。
▶︎ Suuntoアプリで登山・トレイルのルートを作る6つの方法|GPX・ヒートマップも解説
8. 一緒に判断できるパートナーを選ぶ
バックカントリーでは、誰と行動するかも重要です。
単に仲が良いだけでなく、経験、技術、体力、リスクに対する考え方が大きく離れていないことが望ましいでしょう。
Markは、速いか遅いかよりも、お互いの能力がある程度合っていることを重視しています。
例えば、一人だけ極端に体力が高いグループでは、他のメンバーが無理についていこうとして疲労する可能性があります。
また、誰かが「今日はやめたい」「この斜面は避けたい」と感じたとき、それを言いやすい関係であることも重要です。
バックカントリーでは、ひとりの強い意見より、グループ全体で状況を共有しながら判断できることが大切です。
9. いつもの登りルートを無条件に信用しない
山では、よく使われている登りのトラックが残っていることがあります。
しかし、誰かが先に通ったから安全とは限りません。
積雪や風の状況は日々変化します。
以前は適切だったルートでも、その日は上部からの雪崩にさらされる可能性があります。
Markは、既存のトラックをそのまま辿るのではなく、状況によっては別の登り方を選べる知識と判断力を持つことをすすめています。

10. 疲労が判断力を変えることを知る
バックカントリーでは、体力は単に速く登るためだけのものではありません。
良い判断を続けるためにも、体力の余裕が必要です。
Markは、疲労が判断を曇らせる大きな要因になると指摘しています。
疲れていなければ「安全な方へ遠回りしよう」と考えられた場面でも、疲労していると「もう登り返したくないから、このまま進もう」と、楽な選択を優先してしまうことがあります。
だからこそ、行動計画では、
- 予定時間
- 累積標高
- 自分と同行者の体力
- 戻るために必要な余力
まで考えておく必要があります。
ペースの速い同行者に無理についていき、一日中高い運動強度で行動するような計画も避けたいところです。
▶︎ ゾーン2トレーニングとは?低強度で持久力の土台を作る方法
11. スキーツーリングの歩き方を身につける
スキーで登る動作は、自然に身につくものとは限りません。
効率の悪い動きは、余計な疲労や足のトラブルにつながります。
Markがすすめる基本のひとつは、登るときにスキー板を毎回大きく持ち上げるのではなく、雪面を滑らせるように前へ運ぶことです。
小さな違いに見えますが、何時間も登るとエネルギー消費の差につながります。
歩行技術、キックターン、シールの扱いなども練習し、余計なエネルギーを使わず移動できるようにしましょう。
12. 荷物を必要以上に重くしない
バックカントリーでは必要な安全装備を削るべきではありません。
一方で、不必要な荷物を増やしすぎれば、それだけ疲労も増えます。
Markは「軽いバックパックほどツアーを楽しみやすい」と話します。
また、登りでは身体がかなり熱くなります。
最初から厚いシェルを着たまま登ると、汗を大量にかき、その後の休憩や下りで身体が冷えやすくなることがあります。
登りでは暑くなりすぎないよう調整し、停止時や下りで必要な防寒着をすぐ使えるようにしておく。
装備の軽量化だけではなく、適切なレイヤリングも疲労管理の一部です。
13. 現地で得た情報を共有する
バックカントリーで見た積雪や雪崩の情報は、他の人にとって重要な情報になることがあります。
Markは、現地で雪崩などを確認した場合、可能であれば場所や状況を記録し、その地域で情報を集約している仕組みがあれば共有することをすすめています。
専門用語をすべて理解していなくても、
- どこで見たか
- いつ見たか
- どのような状況だったか
といった事実を記録できます。
バックカントリーの安全は、個人だけではなくコミュニティ全体で情報を積み上げることによっても支えられます。

14. 帰宅後に「良い判断だったか」を振り返る
Markの14のアドバイスの中でも、特に印象的なのが行動後の振り返りです。
一日を終えて無事に帰宅すると、
「今日は成功だった」
と思いたくなります。
しかし、Markはこう考えます。
無事に帰れたからといって、すべての判断が正しかったとは限らない。
結果的に何も起きなかっただけで、必要以上のリスクにさらされていた可能性もあります。
そこで山行後に、パートナーとこんなことを話してみます。
- 今日は良い判断ができたか?
- 単に運が良かった場面はなかったか?
- 最もリスクにさらされていたのはどこだったか?
- 同じ山行をもう一度するなら何を変えるか?
うまくいかなかった点を責めるためではありません。
次の山行で、より良い判断をするためです。
バックカントリーでナビゲーションをどう活用する?
バックカントリーでは、ナビゲーションも重要な準備のひとつです。
事前にルートを確認していても、現地では天候、積雪、視界、疲労などによって予定通り進めない場合があります。
だからこそ、メインルートだけではなく、代替ルートや撤退方向も考えておくことが大切です。
Suuntoアプリではルートを作成したり、GPXデータを取り込んだりして、対応するSuuntoウォッチへ同期できます。
Suunto Vertical 2では、オフラインマップ、ルートナビゲーション、高度・気圧などの情報をウォッチ上で確認できます。
ただし、GPSウォッチやオフラインマップが雪崩リスクを判断してくれるわけではありません。
雪崩情報、気象、地形、積雪の観察、自分たちの経験と体力を組み合わせて判断し、そのための情報源のひとつとしてナビゲーションツールを活用する。
その位置づけが重要です。
▶︎ Suuntoアプリで登山・トレイルのルートを作る6つの方法|GPX・ヒートマップも解説
まとめ|無事に帰れた=正しい判断とは限らない
バックカントリースキーの魅力は、ゲレンデでは味わえない雪や景色、自分の力で山を登った先にある一本を楽しめることです。
一方で、その自由には自分たちで判断する責任も伴います。
- 必要な装備を準備する
- その装備を使えるよう練習する
- 雪崩リスクを学ぶ
- 自分の経験に合うルートを選ぶ
- 出発前に情報を集める
- 信頼できるパートナーと行動する
- 疲労する前に判断する
- 必要なら計画を変える
- 帰宅後にその日の判断を振り返る
Markが伝えているのは、「バックカントリーへ行くな」ということではありません。
より深く学び、より良い準備をして、より良い判断ができるスキーヤーになろうということです。
良い雪を滑れたかどうかだけではなく、今日の判断は良かったか。
次のバックカントリーへ向かう前に、その問いも忘れないようにしましょう。

All images © Mark Smiley