海や湖の環境を守るために必要なのは、研究者の知識だけではありません。水中へ入り、自分の目で環境を観察し、記録し、その価値を社会へ伝えられる人を育てることも大切です。
世界各地の水中洞窟や極地を探検してきたダイバーJill Heinerthは、若い環境科学者Kayla Martinの可能性に気づき、彼女のキャリアを支えるために行動しました。
冷たい水でのダイビング技術を磨くこと。
必要な装備をそろえること。
科学調査の現場へ出ること。
そして、水中で得た発見を社会へ伝えること。
小さな支援から始まった取り組みは、やがてKayla自身が未記録の沈没船調査を率いるまでの成長につながっていきました。
「次の世代へ経験を渡すこと」は、海を守ることにもつながる。
JillとKaylaの物語から、ダイビング、科学、メンターシップのつながりを見ていきましょう。

Kayla Martin playing in the sea foam in Les Escoumins. Text and images by Jill Heinerth.
JillがKaylaの可能性に気づいたことから始まった
この物語の始まりは、Jillが若い環境科学者Kayla Martinと出会い、その可能性に気づいたことでした。
Kaylaには、環境科学への情熱がありました。
そしてJillは、その情熱を研究や環境コミュニケーションのキャリアへつなげるために、もう一歩踏み出せる機会を作りたいと考えました。
Jill自身が持つネットワークを活用しながら、必要な資金の一部も自ら負担し、2人は水中調査の遠征を計画します。
目的は単に「一緒に潜ること」ではありません。
Kaylaが科学者として、水中環境を自分自身で観察し、記録し、社会へ伝えるための経験を積むことでした。
科学者にとってダイビングが武器になる
環境科学では、水質、地形、生態系、沈没船など、さまざまな対象を調査します。
水中環境を研究する場合、ダイビング技術を持っていれば、研究対象へ自分自身でアクセスできるようになります。
水面から推測するだけではなく、
- 水中の状態を直接観察する
- 写真や映像を残す
- 調査ポイントを確認する
- 変化を継続的に記録する
といったことができます。
Jillにとってダイビングは、冒険のためだけの技術ではありません。
科学、探検、教育、環境保全をつなぐための方法でもあります。
冷水域で必要だった経験と装備
遠征へ向けて、JillとKaylaはまず地元の水域でトレーニングを行いました。
目的のひとつは、これから向かう冷たい水中環境に対応する経験を積むことでした。
冷水でのダイビングでは、暖かい海とは異なる準備が必要になります。
水温、装備、浮力、体温管理など、環境に合わせた知識と経験が求められます。
トレーニングを続ける中で、JillはKaylaがより信頼できる装備を必要としていることに気づきました。
情熱だけでは、厳しい水中環境へ安全に入ることはできません。
正しい技術と、それを支える適切な装備の両方が必要です。
ひとりではなく、コミュニティで支える
そこでJillは、自分ひとりで解決しようとはしませんでした。
自分を長年支えてきた企業やコミュニティへ声をかけ、Kaylaの挑戦を支えるための協力を求めました。
Suuntoは、Jillに提供していた年間のギアサポートをKaylaへ移すことで協力しました。
さらに他のダイビング関連企業も、ハーネスやドライスーツなど必要な装備を提供。
Jill自身も、バックアップ用のダイブコンピュータや保温装備など、自分が持っていた道具をKaylaへ渡しました。
ひとりの若者を支えるために、複数の人や組織がそれぞれできることを持ち寄った。
それが、このプロジェクトの大きな特徴でした。
調査遠征がキャリアの転機になった
装備と準備が整ったことで、Kaylaはより本格的な水中調査へ参加できるようになりました。

A small plane lies in a freshwater quarry in Quebec, one of the first stops on their expedition.
遠征では、淡水域を含むさまざまな水中環境へ潜りました。
そこで必要になるのは、単に深く潜る技術ではありません。
調査目的を理解すること。
安全に潜水すること。
水中で落ち着いて観察すること。
そして、そこで得た情報を記録すること。
ひとつひとつの経験が、Kaylaにとって環境科学者としての実践的な力になっていきました。
若い科学者から調査を率いる立場へ
Jillとの遠征は、単発のプロジェクトで終わりませんでした。
その後もKaylaは、環境保全、科学調査、教育に関わり続けました。
そして記事が書かれた時点では、未記録の沈没船を調査する遠征を自ら率いる立場へ成長しています。
最初は経験を与えてもらう側だった若い科学者が、やがて自らプロジェクトを動かす側になる。
Jillにとって、それこそが支援の意味でした。
人を支えることは、その人ひとりだけに影響するとは限りません。
支援を受けた人が成長し、次の研究や教育、環境保全へつなげていけば、その影響はさらに広がっていきます。
ダイビングには経済的な壁もある
Jillがこの経験を通して改めて感じたのが、ダイビングには大きな経済的ハードルがあるということでした。
ダイビングを続けるには、
- トレーニング
- 認定
- ダイビング器材
- 保温装備
- ダイブコンピュータ
- 移動や遠征
など、多くの費用がかかります。
特に若い研究者や学生にとっては、その費用が環境科学や水中研究の道へ進む障壁になる場合があります。
能力や情熱があっても、必要な道具や経験へアクセスできなければ、挑戦すること自体が難しい。
だからこそJillは、すでに経験やネットワークを持つ人が、次の世代へ少しずつ機会を渡すことを大切にしています。
「Paying it forward」次の世代へ経験を渡す
この記事のタイトルになっている「Paying it forward」とは、自分が受けた恩や支援を、その相手へ直接返すのではなく、次の誰かへ渡していくという考え方です。
Jill自身も、長いダイビングキャリアの中で多くの人や組織に支えられてきました。
その経験を、自分より若いKaylaへつなぐ。
そして、Kaylaがいつかまた別の若い研究者やダイバーを支える。
そうして知識、経験、機会が次の世代へ循環していく。
それがJillの考える「Paying it forward」です。
身近に、情熱を持って学んでいる若い人がいるなら、自分ひとりですべてを支える必要はありません。
仲間やコミュニティへ声をかけ、小さな支援を組み合わせるだけでも、その人の未来を変えるきっかけになるかもしれません。
Jill Heinerthとは?
Jill Heinerthは、30年以上にわたって科学ダイビング、探検、撮影に携わってきた洞窟ダイバーです。
南極の氷山内部へのダイビングや、世界各地の深い水中洞窟での科学探査など、地球上でも限られた人しか到達していない場所を数多く探索してきました。
同時に、Jillは自分が見てきた水中世界を、映像、写真、書籍、講演などを通して社会へ伝える活動も続けています。
探検するだけではなく、水中で見つけたものを次の人へ伝えることも彼女の活動の重要な一部です。
JillとSuuntoの関係も長く、彼女は1988年に初めてSuunto製品を購入して以来、長年ダイビングでSuuntoを使用しています。
水中での探検と調査を支えるSuunto
科学調査でもレクリエーションダイビングでも、水中では深度、潜水時間、減圧情報などを確認しながら潜る必要があります。
Suuntoでは現在、Suunto Ocean、Suunto Nautic、Suunto Nautic Sなど、用途に合わせたダイブコンピュータを展開しています。
水中での冒険を記録したい人、スキューバダイビングやフリーダイビングを楽しみたい人は、現在のSuuntoダイビング製品をチェックしてみてください。
まとめ|道具を渡すだけでなく、機会を渡す
Jill HeinerthがKayla Martinへ渡したものは、ダイビング器材だけではありませんでした。
水中で経験を積む機会。
科学調査に参加する機会。
専門家のネットワークへ入る機会。
そして、自分自身でプロジェクトを率いる未来へ進むためのきっかけ。
適切なタイミングで誰かが少し背中を押すことで、その人が進める距離は大きく変わることがあります。
海や湖を守るためには、新しい技術だけでなく、次の世代を育てることも必要です。
自分が受け取った経験や機会を、自分だけで終わらせない。
次の誰かへ渡していく。
JillとKaylaの物語は、その小さな循環がどれだけ大きな未来につながるかを見せてくれます。