自転車で約600km、そしてアイガー北壁へ|撤退と再挑戦から学ぶ山の判断

自転車でドイツからスイス・アイガー北壁へ。Philipp ReiterとMartin Schidlowskiが歴史的なアルピニストの足跡を追ったBike2Eiger。雪での撤退、1年後の再挑戦、山で計画を変える大切さを紹介します。

SuuntoSkiMay 23 2024

自転車で約600kmを走り、そのままアイガー北壁へ挑む。そんな壮大な計画も、山では予定通りには進みません。雪、寒さ、疲労、そして変化するコンディション。SuuntoアンバサダーのPhilipp Reiterと幼なじみのMartin Schidlowskiが挑んだ「Bike2Eiger」は、単なる自転車と登山の冒険ではなく、撤退、再挑戦、そして山で計画を変えることの大切さを描いた物語です。

2人が目指したのは、スイスを代表する名峰アイガーの北壁

しかも、車や電車で登山口へ向かったわけではありません。

1930年代に同じ土地からアイガーへ向かった2人のアルピニストにならい、ドイツのベルヒテスガーデナー・ラントからスイスのグリンデルワルトまで、自転車で移動するところから旅を始めました。

しかし、最初の挑戦は成功しませんでした。

Bike2Eigerが伝えているのは、「何があっても計画を遂行すること」ではなく、条件を見て撤退し、必要なら時間を置いて再び挑戦すること。

山での冒険に必要な「適応する力」を、2人の旅から見ていきましょう。

自転車でアイガーへ向かったPhilipp ReiterとMartin Schidlowski

Philipp ReiterとMartin Schidlowski。2人は幼い頃からの友人です。

Bike2Eigerとは?

Bike2Eigerは、SuuntoアンバサダーのPhilipp Reiterと、登山家・山岳ガイドのMartin Schidlowskiが挑んだマルチスポーツ・アドベンチャーです。

2人はドイツ南東部からスイスのグリンデルワルトまで、自転車で約600kmを移動。

そこからアイガー北壁の登攀を目指しました。

自転車での長距離移動と本格的なアルパインクライミングをひとつにつなげたこの旅には、明確な理由がありました。

それは、約90年前に同じ地域からアイガーへ向かったアルピニストたちの足跡をたどることでした。

1930年代、2人のアルピニストも自転車でアイガーへ向かった

PhilippとMartinが追いかけたのは、Anderl HinterstoisserとToni Kurzという2人のアルピニストです。

彼らもPhilippたちと同じベルヒテスガーデナー・ラント周辺の出身でした。

1930年代、当時まだ登攀されていなかったアルプス最大級の課題のひとつ、アイガー北壁へ挑戦するためにスイスを目指しました。

しかし、現在のように簡単に車で長距離移動できる時代ではありません。

列車で移動する経済的な余裕もなく、彼らは自転車でBad ReichenhallからGrindelwaldへ向かいました。

PhilippとMartinも、その移動そのものを含めて当時の旅を追体験したいと考えました。

「アイガーだけ登れば同じ旅になる」ということではなく、山へたどり着くまでの時間や苦労も含めて体験することがBike2Eigerの出発点でした。

幼なじみ2人だからできた冒険

PhilippとMartinは、このプロジェクトのために組んだチームではありません。

幼稚園時代からの友人です。

これまでにもランニング、クライミング、登山など、数多くの山岳アドベンチャーを一緒に経験してきました。

得意分野は少し違います。

Martinはクライマー、アルピニストとしての経験が豊富。

一方、Philippは長時間動き続けることを得意とするエンデュランスアスリートです。

違う強みを持ちながら、山に対する考え方や情熱は共通していました。

長い冒険では、速さや技術だけでなく、一緒に判断できる相手がいることも重要です。

約600kmの自転車旅から始まった

アイガーへ向かう旅は、まず3日間の長距離ライドから始まりました。

しかし、スタートから順調だったわけではありません。

出発からわずか約1時間半。

2人は30〜40cmほど積もった新雪に阻まれ、自転車を押して進むことになりました。

雪の中を自転車でアイガーへ向かうBike2Eigerの2人

スタート直後から深い雪。計画していた自転車旅は早くも想定外の展開になりました。

気温も低く、アルパインクライミングに必要な装備をすべて自転車に積んでいたため、荷物も想像以上に重くなりました。

Martinにとっては、そもそもこれほど長い自転車旅自体が未知の領域でした。

それまで100kmを超えるライドをほとんど経験していなかったにもかかわらず、初日には約220kmを走る計画だったとPhilippは振り返っています。

Philipp自身も順調ではありません。

長時間のライドで脚にトラブルが出て、膝周辺に強い痛みを抱えることになりました。

それでも彼らが自転車を選んだのは、効率のためではありません。

先人たちと同じように、自分たちの力で山へ向かうこと自体が、この冒険の一部だったからです。

最初のアイガー挑戦は雪で撤退

長い自転車旅を終え、ようやくアイガーへ。

しかし、本当の問題はそこからでした。

雪の多いアイガーで最初の登攀に挑むBike2Eiger

最初のアイガー挑戦。雪が多く、2人が期待していたコンディションではありませんでした。

最初の挑戦では、アイガー北壁に雪が多く残っていました。

プロジェクトには複数の人が関わっていたため、全員のスケジュールを何度も変更するのは簡単ではありません。

挑戦できる日程は限られていました。

Philippたちは、条件が完璧ではないことを理解しながら登り始めました。

しかし、進むにつれて雪の量が大きな問題になります。

最終的に、最初の挑戦では目的を達成できませんでした。

ここで重要なのは、自転車で何百kmも走ってきたからといって、そのまま登攀を続けなかったことです。

そこまで費やした時間や努力が大きいほど、「ここまで来たのだから」と計画に固執したくなるものです。

しかし、山の条件は努力とは関係なく変化します。

山では「急がないこと」も判断のひとつ

最初の挑戦について、Philippは山岳活動ではコンディションを待つことが重要だと振り返っています。

山では、こちらのスケジュールに合わせて天候や雪が変わってくれるわけではありません。

十分な準備をしていても、

  • 雪が多すぎる
  • 天候が崩れる
  • 想定以上に時間がかかる
  • 身体の状態が悪い

などによって、計画を変更する必要があります。

「予定したから行く」のではなく、「今日の条件で行けるか」を判断する。

それは登山でも、長い山岳アドベンチャーでも変わりません。

撤退は、それまでの旅を無駄にするものではありません。

次に挑戦するための判断でもあります。

スマートフォンとSuuntoウォッチを使ってルートと天候を確認する様子

ルートと天候を確認することも、山岳アドベンチャーの重要な一部です。

1年後、条件を待って再挑戦

Bike2Eigerは最初の失敗で終わりませんでした。

1年後、PhilippとMartinは再びアイガーへ戻ります。

今度は前回とは状況が違いました。

山のコンディションが良く、2人自身もさらに準備を積んでいました。

その間には、マッターホルン北壁などで一緒にトレーニングを重ね、チームとしての経験も増えています。

そして、2度目は自転車での600km近いアプローチを繰り返しませんでした。

最初の旅の目的はすでに果たしていたためです。

結果として、脚に3日間のライドによる疲労が残っていない状態でアイガーへ向かうことができました。

Eigergletscherへ向かう段階から、Philippは前回とは違うポジティブな雰囲気を感じていたと振り返っています。

好条件のアイガーで再挑戦するPhilipp ReiterとMartin Schidlowski

2度目の挑戦。条件も準備も、最初の挑戦とは違っていました。

そして2人は、ルートを変更しながらアイガーの頂上へ到達しました。

アイガー山頂に立つPhilipp ReiterとMartin Schidlowski

アイガー山頂。最初の挑戦から1年後、2人は再び山へ戻りました。

計画通りにいかないからこそ、適応する

Bike2Eigerを終えたPhilippが、この冒険から得たこととして挙げたのが「適応する力」です。

アドベンチャーでは、多くの場合、実際に起こることは最初に考えていた計画とは違います。

Bike2Eigerでも、

  • スタート直後の大雪
  • 予想以上に重い荷物
  • 長距離ライドによる身体のトラブル
  • アイガーの積雪
  • 最初の登攀断念
  • 1年後の再挑戦
  • 2回目では異なるルートを選択

と、計画変更の連続でした。

それでもプロジェクトの目的そのものを失ったわけではありません。

計画を守ることと、目的を守ることは同じではない。

その時の条件に合わせて方法を変えながら、最終的に目指した場所へたどり着く。

Bike2Eigerは、そのことを分かりやすく見せてくれる冒険です。

動画|Bike2Eigerを観る

Bike2Eigerは、PhilippとMartinの自転車旅、最初のアイガー挑戦、そして2人の友情を描いた約28分のドキュメンタリーとして公開されています。

Bike2Eiger / Bayerischer Rundfunk

長い山岳アドベンチャーを支えるSuunto

Bike2Eigerのように、自転車、登山、クライミングなど複数のアクティビティを組み合わせる旅では、距離や高度だけでなく、ルートや天候を確認しながら行動することが重要です。

現在のSuuntoウォッチとSuuntoアプリでは、ルート作成、オフラインマップ、標高情報、ナビゲーションなどを活用して山岳アドベンチャーをサポートできます。

長時間の登山、縦走、バイクパッキングなどで地図やルートを手元で確認したい場合は、Suunto Vertical 2が選択肢になります。

ただし、GPSウォッチやナビゲーション機能が山での安全を保証するものではありません。

天候、ルート、山のコンディションを確認し、その日の状況によって計画を変更すること。

それこそがBike2Eigerの物語にも通じる、山で最も大切な判断のひとつです。

Suunto Vertical 2を見る

まとめ|撤退も再挑戦も冒険の一部

Philipp ReiterとMartin SchidlowskiのBike2Eigerは、自転車でアイガーへ行き、山頂に立つという単純な成功物語ではありません。

深い雪の中を自転車で進み、何百kmもの距離を走り、ようやくアイガーへたどり着いても、最初の挑戦では撤退しました。

それでも1年後に戻り、さらに準備を積み、条件を待ち、方法を変えて再挑戦しました。

この旅から見えてくるのは、

  • 山へ向かう過程そのものを楽しむこと
  • 仲間それぞれの強みを活かすこと
  • 条件が悪ければ計画を変えること
  • 急いで結果を求めないこと
  • 失敗から学び、準備して戻ること
  • 最初の計画に固執せず適応すること

です。

山では、予定通り進むことだけが成功ではありません。

その日の条件を見て引き返し、また挑戦できる状態で帰ること。

そして、必要なら1年後に再び山へ戻ること。

それもまた、長い冒険の一部です。

おすすめのSuunto製品

あなたへのおすすめ

Suunto Race S vs Race 2: Size, Weight, and Battery Life Compared

Suunto Race SとRace 2を比較。サイズ・重さ・バッテリーで選ぶならどっち?

Suuntoのスポーツウォッチを検討している人にとって、迷いやすいのが「Suunto Race S」と「Suunto Race 2」の違いです。 どちらもAMOLEDディスプレイ、オフラインマップ、115以上のスポーツモード、トレーニング分析機能を備えた、ランニングやトレイルランニング、レース、日々のトレーニングに活用できる高性能モデルです。Suunto Race Sは「小さく、軽く、日常に...
Suunto Vertical vs. Vertical 2: Key Differences Explained

Suunto Vertical vs Vertical 2|どちらを選ぶべき?5つの違いを徹底比較

「Suunto Verticalを買おうと思っていたら、Vertical 2が出ていた」「初代とどこが変わったのか、値段差に見合う進化があるのか知りたい」——そんな疑問を持つ方に向けて、この記事では2モデルの違いを5つのポイントに絞って整理します。 どちらを選ぶべきかの判断基準も最後に明確にまとめていますので、ぜひ最後まで読んでみてください。 Suunto Vertical と Vertic...
How to play music on a running watch | Run without your phone with Suunto Run × Spark

ランニングウォッチで音楽再生する方法|スマホなしで走れるSuunto Run × Sparkの使い方

ランニング中に音楽を聴きたいけれど、スマートフォンを持って走るのは重い。ポケットやランニングポーチの中で揺れるのが気になる。そんな悩みを感じたことはありませんか? 音楽再生に対応したランニングウォッチを使えば、スマートフォンを持たずに、より身軽に走ることができます。 Suunto Runは、ウォッチ本体に音楽を保存できるオフライン音楽機能を搭載したランニングウォッチです。Suunto ...
How to use HRV to optimize your recovery

HRV(心拍変動)とは?正常値の見方と回復・トレーニングへの活かし方

「しっかり練習しているのに記録が伸びない」「いつもより疲れが残っている」と感じるときは、トレーニング量だけでなく、身体の回復状態にも目を向けてみましょう。回復を把握するための指標として活用されているのが、HRV(心拍変動)です。 HRVは、心拍数そのものではなく、心拍と心拍の間隔に生じるわずかなゆらぎを示します。毎日の数値を継続して確認することで、トレーニング、睡眠、ストレスなどに身体がどの...